次世代へ、美しい日本を
Beautiful Japan. To the next generation
- 2021元日 文化人メッセージ -
古都と現代の狭間、
近代に目を向ける
並木誠士
京都工芸繊維大学教授
同大学美術工芸資料館館長
京都は「古都」です。しかし、同時に現代を生きる街でもあります。何より、京都には「大学の街」といわれるほどに多くの大学があります。つまり、若い人であふれる街なのです。そしてもう一つ、ミュージアムを持つ大学が多いことも特徴です。
私たちは、2011年秋に「京都・大学ミュージアム連携」を立ち上げました。個々の大学ミュージアムは、規模が小さ ません。そこで、手を組んで、いろいろな事業を展開しようと考え、14の大学ミュージアムで10年間活動を続けてきました。毎年スタンプラリーを行い、京都や九州・東北・沖縄、そして、18年には台湾でも合同展覧会を開催しました。大学ミュージアムの活動やユニークな収蔵品の数々についても、少しずつ理解が広がってきました。
大学ミュージアムの収蔵品は大学の特徴をよく表しています。芸術系・宗教系・教育系そして総合大学と収蔵資料は多様で多彩です。そして、その多くは、大学の教育・研究で使われた教材や教育・研究の成果です。開国した日本が近代化してゆく過程で設置された高等教育機関がやがて大学になりました。つまり、大学ミュージアムの収蔵資料のかなりの部分が日本の近代化を支えた重要な品々なのです。この点で大学ミュージアムは他の美術館・博物館と大きく異なります。
京都工芸繊維大学美術工芸資料館は充実したポスターコレクションで知られています。そこには、ロートレックやミュシャといったポスター草創期の代表的な作者の作品が含まれています。これらは、前身校の一つである京都高等工芸学校の図案科の教材でした。20世紀初頭、ヨーロッパの最先端のデザイン資料として、初期の教員たちが現地でポスターや工芸品を購入してきたのです。
しかし、大学ミュージアムの収蔵品も含めた近代の産物は、「古都」のイメージの中で忘れられてきました。コンピューターの登場に象徴される急速な機械化により、過去のものとして失われてゆくものもあります。美術工芸資料館で何回か展覧会を行った機械捺染の技術やその技術を生かしたアフリカ向け衣料などはその代表例です。しかし、古美術でもなく現代美術でもない美術工芸の数々にも、最近はだいぶ光が当たり、これまで注目されなかった近代ならではの技術や作品も注目されるようになってきました。
古都と現代の狭間である近代に目を向けると、もっと面白い京都の姿が見えてくるかもしれません。
◉なみき・せいし
1955年東京都生まれ。徳川美術館学芸員、京都大助手、京都造形芸術大助教授を経て現職。専門は日本美術史、美術館学。主な編著書に「近代京都の美術工芸―制作・流通・鑑賞」(共編著)、「日本絵画の転換点『酒飯論絵巻』―『絵巻』の時代から『風俗画』の時代へ」「絵画の変―日本美術の絢爛たる開花」「美術館の可能性」(共著)など。