賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

次世代へ、美しい日本を

Beautiful Japan. To the next generation

- 2021元日 文化人メッセージ -

中林美恵子

米国社会の分断、格差、コロナ問題
他国のものと傍観できない

中林美恵子
政治学者
早稲田大学教授

今まで経験したことのない、コロナ禍でのお正月である。日本らしさが凝縮された行事さえ控えめになる中で、それでも新しい年と時代は粛々とやって来る。そして米国でも、1月20日には新政権が誕生する。
米景気も雇用も絶好調だったコロナ前、トランプ大統領の選挙戦は順調のように見えた。しかし米国内での感染拡大後は一転、マスク反対派と賛成派の対立が政治色を帯び、感染防止は経済活動再開との矛盾にぶつかり、人種差別問題も表面化した。12月中旬には死者数が30万人を超え、3月には第2次世界大戦の米死者数を超えると推計されている。
米国ではコロナ死者数を戦死者と比較する傾向がある。ベトナム戦争(5万8千人)、朝鮮戦争(3万7千人)、第1次世界大戦(11万6千人)、第2次世界大戦(40万5千人)、さらにさかのぼれば南北戦争(60万~85万人)である。一日のコロナ死者数が3千人規模になった日は、9・11同時多発テロ以上だと報じられた。
日本も、コロナで苦しむ構造は同じだ。ただし、米国と違う点は、「日本の不思議」とも称された比較的少ない死者数だろう。マスクや消毒、小声の会話はもとより、周囲への気遣いは特に広く浸透しており、市民が行動制限を促し合っている側面さえある。
しかしながら一方で、大統領選が見せた米国社会の分断や格差そしてコロナ問題を、完全に他国のものと傍観できない現象も見られた。格差や貧困はその例だ。さらには、トランプ氏が選挙の敗北を認めないとツイートし始めると、日本でもSNS(会員制交流サイト)で不正選挙の陰謀論を拡散する運動が始まり、それを信じる人々が私の周りにも出てきたのには、本当に驚いた。対立姿勢や刺激の強さは、中庸や協調、ましてや妥協よりも、一部の熱狂的な支持者を生みやすく、日本にも土壌がある。
お手本だったはずの米国の民主主義に対しても懸念や不安が広がった。米国の選挙と論争は、徹底的にオープンだ。だからこそ社会の問題もいち早く表面化する。この移民国家が実践する民主主義という葛藤を、私たちは謙虚に捉えたい。なぜなら、233年前に発効した合衆国憲法の基本精神を頑固に守りながら、民意を探っていくプロセスが、米国の伝統と文化だからだ。
日本の未来も、私たちの歴史と文化が土台となる。米国で誰が大統領に選ばれようとも、日本人の存在や価値観が世界にとって不可欠な財産となるための努力が必要だ。私たち一人一人が自分を磨き続けるほかはない。

◉なかばやし・みえこ
1960年埼玉県生まれ。大阪大博士(国際公共政策)、米国ワシントン州立大修士(政治学)。米上院予算委員会補佐官(国家公務員)として約10年予算編成に携わる。経済産業研究所研究員、財務省財政制度等審議会委員、衆議院議員などを経て現職。米マンスフィールド財団名誉フェロー。グローバルビジネス学会理事。近書に「沈みゆくアメリカ覇権」など。