賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

次世代へ、美しい日本を

Beautiful Japan. To the next generation

- 2021元日 文化人メッセージ -

田中恆清

人と人とを「むすぶ」祈りの心

田中恆清
石清水八幡宮 宮司

昨年より新型コロナウイルス感染症の全世界への蔓延という未曽有の疫病災害に見舞われ、私たち日本人の生活は大きく変化しました。もちろん人類の歴史を顧みますと、私たちの今の生活には、大規模な疫病による災害を幾度となく乗り越えてきた叡智が集積されていることに気づかされます。医療技術の進歩や衛生面での市街地の整備、社会制度の刷新など、疫病が蔓延するたびに先人たちは知恵を絞り、力を合わせ、その終息に全力を注いできました。
そしてさらに先人たちは、一刻も早い疫病の終息と家族や子どもたちの健康を願い、平穏な生活が戻るよう神々に祈りを捧げてきました。古来日本人は、他者とのつながりや結び付きを何よりも大切にして、自分以外の人々のために神仏に祈りを捧げてきた民族であります。
神道には「むすび」という言葉があります。古くより伝わる大和言葉ですが、「むす」には生成する、「び」には強い力という意味があり、記紀神話に登場する神々の名前としても使われるなど、その意味は万物を生成する強い神々しい力として表現されます。身近な例で申しますと、私たちが好んで食する「おむすび」も、命を育むお米が人々の愛情を込めた「むすび」の力によって「おむすび」となり、強い働きを生み出す源と考えられてきたのであります。
昨今の世情は、疫病の感染防止対策として他者との接触が避けられるようになり、人間関係の希薄化が進み、企業の倒産、飲食店の廃業も相次ぎ、ますます孤独感を深めた人々が尊い命を自ら絶つなどのニュースも多く聞かれるようになりました。
まさに今の時代にこそ、人と人とを結ぶ心を思い起こし、日本人が受け継いできた家族や他人を思いやり幸せを願う祈りの心を、次代に伝えていく時であると強く感じます。前述のように「むすび」の心には、万物を生成する強い力があると先人たちは考えてきました。自分さえ良ければという自己中心的な行動からではなく、皆で助け合い、他者を思いやり、人と人とが深く関わり合うことによって、新たな強い力が生み出されるのであります。
日本の伝統精神が根付いている歴史ある京都の地より、助け合いの精神や思いやりの気持ちなど、人と人とを結び付ける心の大切さをもって、この難局に立ち向かっていきたいと思います。 

◉たなか・つねきよ
1944年京都府生まれ。69年國學院大神道学専攻科修了。平安神宮権禰宜、石清水八幡宮権禰宜・禰宜・権宮司を経て、2001年石清水八幡宮宮司に就任。02年京都府神社庁長、04年神社本庁副総長を務め、10年神社本庁総長に就任。