賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

次世代へ、美しい日本を

Beautiful Japan. To the next generation

- 2021元日 文化人メッセージ -

龍村 周

心通わすものづくり

龍村 周
錦織作家

光峯錦織工房(龍村光峯)を開放し、工房見学や機織り体験を始めてから10年近くになります。老若男女、国内外から多くの方に絹織物工房の現場をご覧いただき、機織りを楽しんでいただいています。小学生の低学年でも楽しめるようにしているため夏休みの自由研究にもお越しくださることが増え、京都、東京、静岡で子どものための機織り体験を開催したり、新潟や香川でイベントをしたり、京都以外でもお声が掛かることも増えました。
機織り体験を開催する目的は、父の龍村光峯が立ち上げた日本伝統織物研究所の理念でもある「伝統織物を継承する」というところからの発想です。
西陣で機織りの音が聞こえなくなったという声を聞いてから随分年月が経ちました。年々伝統文化を感じる環境が少なくなってきています。しかしながら、機織り体験を行って気づいたことがあります。それはすべての世代で体験後、自然に笑顔になり感動する姿があるということです。人によっては瞑想のような感覚を感じる方もいらっしゃいます。子どもたちの中には最初は緊張していてもいつの間にか懐いてくる子も。皆さん、楽しいのです。
絹織物は、お蚕さんを育てることから始まります。手機は材木でできています。竹の道具もあります。織物は自然からの恩恵を受けて作られているのです。私はそれを「自然に添う技術」と言っています。そこから奏でる機音は自然と対話をしているように感じられ、無意識に心地よくなっていくようです。京都大総長などを歴任された故西島安則先生に以前私どものお仕事は「心・事・物」が備わっているとお褒めの言葉を頂戴しました。特に「心」が大切である、と。機織りには心を通わす力があるのではないかと思っています。
子どもたちには、日本の文化をもっと体験して欲しいと願っています。なぜなら機織り体験の経験上、小学生の高学年の子どもたちが全世代の中で一番上手だからです。可能性が無限大です。織物だけではなく、全国に素晴らしい伝統文化が受け継がれています。練達の職人さんのようにはできません。ですが、ものづくりを体験することは「できる」のです。
日本の宝をつないでいくために自然を感じながら笑顔と感動をもって心を通わすものづくりを皆さんと作り上げていきたいと願っています。

◉たつむら・あまね
錦の伝統織物作家。東京造形大卒。龍村光峯代表取締役。日本伝統織物研究所代表理事。曽祖父に初代龍村平蔵(号・光波)、祖父に二代龍村平蔵(号・光翔)、父に織物美術家龍村光峯。2018年度京都市伝統産業「未来の名匠(西陣織)」認定。錦織美術作品の制作や古代織物の復元研究に従事。書、篆刻(てんこく)、陶芸の作品も制作。