賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

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Beautiful Japan. To the next generation

- 2021元日 文化人メッセージ -

橘 重十九

神仏習合の祈りに思いをはせる

橘 重十九
北野天満宮 宮司

昨年は新型コロナウイルス感染症拡大の影響で閉塞感漂う一年であり、神職はひたすらにその収束を願って神に祈る日々でした。いまだ猛威を振るう疫病に対し、世界の叡知の結集によってワクチン開発が進むなど、かすかながら光明も見えはじめており、必ずや人類はこの災いを克服し、平和な日々を取り戻すものと確信しています。
菅原道真公(菅公)を祀る北野天満宮は、学問・文化芸能の神として広く信仰されていますが、古くは祇園社(八坂神社)と並び御霊信仰も盛んな社でした。昨年9月、比叡山延暦寺の僧侶とともに、応仁の乱で途絶えていた北野御霊会を550年ぶりに再興したことは、報道などでご存知の方もあろうかと思います。
延暦寺との御縁は明治初年の神仏分離によって途絶えましたが、それまで千年にわたり、当宮は天台宗五門跡寺院の一つ、曼殊院門跡が別当寺として統括しておりました。山門僧侶による法華経の読経が御本殿に響きわたった北野御霊会は、まさしくかつての神仏習合の信仰を再現させたものでした。私は祝詞を、森川宏映天台座主は祭文を奏上し、コロナ禍の一日も早い収束と世界平和を祈願しました。森川天台座主が祭文の中で菅公の御神霊と宗祖・伝教大師(最澄)の尊霊に厄難消除・疫病退散を強く乞われた時は胸に熱いものが込み上げました。
北野御霊会の再興は、コロナ禍により突然思いついたものではありません。2027(令和9)年の式年大祭である「菅公千百二十五年半萬燈祭」に、かつての勅祭北野祭のようなにぎわいのある「令和の北野祭」の斎行を目指し、ここ数年、途絶えていた旧儀を一つ一つ再興していく中で、天門に祀られた勅祭北野祭に欠かせない重要儀式が北野御霊会であると分かりました。また北野祭では御霊会のみならず、神輿渡御や獅子舞・田楽・舞楽・相撲などさまざまな芸能が奉納され、京都随一の神事として執り行われたのです。
そのような中で遭遇したコロナ禍。僧侶の読経の声を聞きながらさまざまな疾病が流行し、ひたすら神仏に祈った平安京の昔に思いをはせました。
自然と共存してきた人類の歴史は、一面ではウイルスとの戦いでもありましたが、それに打ち勝つことで今日があります。21世紀の今、医学は日進月歩の発達をみせており、世界の叡知が未知なるウイルスを撃退すべく日夜心血を注ぎ頑張っておられます。その思いが通じるよう懸命に祈る日々です。
今年は天満宮と御縁の深い丑年です。必ずや平穏を取り戻し、安心してご参拝いただける日が戻って来ると信じています。

◉たちばな・しげとく
1948年石川県生まれ。延喜式内社宮司社家25代に生まれる。会社員を経て74年より北野天満宮に奉職。禰宜、権宮司を経て、2006年から現職。その間、北野天満宮ボーイスカウトの創設に尽力。京都府神社スカウト協議会会長として青少年育成活動に努めた。全国天満宮梅風会会長。京都府神社庁理事。

本殿へと進む北野天満宮神職と比叡山延暦寺の山門衆