賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

次世代へ、美しい日本を

Beautiful Japan. To the next generation

- 2021元日 文化人メッセージ -

井上 舞

今、この時、自分自身にしか
感じとることができない感覚

井上 舞
画家

このコロナ禍において、私たちの仕事も、生活の様式も、これまでとは大きく変化せざるを得なくなってしまった。長く続く自粛生活の中、良くも悪くも、自身の活動について振り返り、向き合う時間がたっぷりあったように思う。
現在、私が住んでいる大阪では、関西圏の中でもとりわけ感染拡大の影響が大きい。気軽に外出することもままならず、閉塞した状態が続いている。
もともと、人付き合いはあまり得意な方ではないが、人と直接関わる機会が少なくなると、さらに苦手意識が強くなり、人と連絡を取ることでさえも怖くなってしまっていた。
制作の時は、ひたすら画面に向き合う。「孤独」だと感じることも多いが、時間がありすぎるのも余計なことを考えてしまうのか、一時は筆を取ることさえできなくなって、自分で自分を追い詰めてしまっていたように思う。
そんな中でも、常に支えてくれていた家族、何の前触れもなく連絡をくれた友人・知人の方々の存在は、本当に有り難かった。
制作をしている中では、予期せぬハプニングやピンチに遭遇した時にこそ、それをどう乗り切るかによって、作品を最後まで仕上げることができるか、今後成長できるかが試されているような感覚がしばしばある。それと今回のコロナ禍の状況はどこか重なっているように思えた。
近い将来でさえめどが立たず、不安定な状況が続く。そんな時こそ、普段は当たり前に感じて、忘れてしまいがちなことにいかに気づけるかで、今後自身がどれだけ成長できるかが問われているように思う。
一人で制作に籠もると、つい忘れがちになるが、常に誰かに支えてもらっているのだということに強く感謝できたことが、コロナ禍において、唯一の救いであったのかもしれない。きちんと自分なりの結果を残し、支えてくださっている方々に、自身の仕事で恩返しができるようになりたい。
今までのような、「元通り」の生活に完全に戻ることはないかもしれない。各々がそれぞれの生活を変えて順応させていく必要が出てくると思っている。 たとえ、状況が落ち着いたとしても、私自身の描くことへの悩みや考え事に決着がつくには、まだまだ果てしない道のりとなりそうだ。
 しかし、先の見えない不安に、今にも押しつぶされそうになっても、今、この時、自分自身にしか感じとることができない感覚を大切に、苦しい状況の中でもできることを着実にこなしていきたい。

◉いのうえ・まい
1993年大阪府生まれ。京都市立芸術大大学院美術研究科日本画専攻修了。2016年、上野の森美術館大賞展大賞。シェル美術賞2016入選、FACE2019入選など。

「个(か)」(2018年)