賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム

次世代へ、美しい日本を

Beautiful Japan. To the next generation

- 2021元日 文化人メッセージ -

石黒 浩

「島国仮説」を世界へ
人間もロボットも一つの家族

石黒 浩
ロボット学者
大阪大学基礎工学研究科教授

ロボットの研究をしていると、日本と海外、特にヨーロッパとの受容性の違いについて、その理由を聞かれることが多い。「日本ではロボットは受け入れられやすいが、ヨーロッパでは受け入れられないのはなぜですか?」という質問である。その答えは、聞く側も期待しているように、文化差にあるのだが、その文化差がなぜ生まれたかを考えることが大事で、その理由こそが、日本人が忘れかけている日本人にとって大事なものであるように思う。
日本でロボットが受け入れられやすい理由について、日本では、人間と人間の区別もしなければ、人間とロボットなどの物との区別もしないからだと私は考えている。人間にとってロボットも他の人間と同様に大事なものであるという考えが日本人にあるように思う。これは自分の家では、自分の家族もペットも、皆同様に大事であると思う感覚に似ている。日本の国全体が一つの大きな家族のようなもので、その日本の国の中では、人間と人間の区別をすることもなければ、人間とロボットなどの物との区別もしないし、する必要がない。全てが日本を構成する大事な要素なのである。
日本がこうした大きな家族になった理由は、日本が一つの天皇家の下に長い歴史を持つ単一王朝国家であったことと、他国から離れた島国であり、世界大戦の以前は他国と領土を争うこともほとんどなかったことにある。こうした歴史や地理的環境の下に、日本は非常に平和な国を作り上げた。他国と比較して、人々の間の貧富の差は少なく、スラム街もない。人々は単にお金を稼ぐために働いているのではなく、社会の中で役割を果たすために働いている。このことは特に災害時、日本人の行動に表れる。大きな災害によって街が壊されると、大抵の国ではそれに乗じて盗難が発生するが、日本ではほとんど発生しない。皆が助け合って災害を乗り切ろうとする。各自が社会での役割を意識しながら活動しているのである。
私自身は、このような日本の安全性や文化の独自性が、日本が他国から程よく隔絶された島国であったことに起因するという見方を、「島国仮説」と呼んでいる。この島国仮説は、今後、世界にも適用できるようになると期待している。地球も広大な宇宙の中の島国であり、そこに住む人々は、近い将来大きな一つの家族になり、今よりも助け合い、世界全体として日本のような平和な世界を作り上げていく。

◉いしぐろ・ひろし
1963年滋賀県生まれ。大阪大大学院博士課程修了後、京都大助教授、大阪大工学研究科教授を経て、2009年より現職。社会で活動するロボットの実現を目指し、知的システムの基礎研究と応用研究に取り組む。自身のコピーロボット「ジェミノイド」の開発などで世界的に知られる。20年立石賞受賞。主な著書に「ロボットとは何か」(講談社現代新書)など。