■基調提言
生活文化ルネサンスへの提言
木下博夫氏(国立京都国際会館館長)/ 玉置万美氏(半兵衛麩 代表取締役社長)
公民連携が必要不可欠
木下◉一般に都市というのは、人や物が集積することで生き物のような躍動感あふれるダイナミックさを備えています。このような都市を多面的に考察するための視点として私は「6つのS」で始まるキーワードを置いています。
一つ目はスケールで、京都の中でも限られた中心地域なのか、他府県まで及ぶ広圏都市圏まで想定するかなど地理的な概念です。スパンは長・短期等の時間軸、ストックとスピードは歴史風土と生活空間における時間の移り変わり、スピリッツは物事に対する考え方や信念、センシティブは人間が持つ五感に基づく感覚です。
私はこの6つのSを踏まえ、京都文化の根底に流れる京都スタイルとは何かに思いを巡らしてみるのもよいと考えております。都が1200年以上も置かれ続け、商業文化においても、生活文化においても一定の格調高さがあり、京都ならではの規範意識なども同時に育まれてきました。
このような京都スタイルを維持・発展させるために欠かせないのは官民連携です。豊かな生活文化を背景にした民間と、府や市などの行政組織レベルが密接な協力体制を確立していくことが不可欠です。文化庁の京都移転が決定したのを機に、国レベルとの協調活動も強化し、全国各地の地方都市に一つの地域再生モデルを提案することも視野に入れたいものです。
広義の関西地区は、滋賀県から兵庫県までで構成され、大阪市や神戸市などの名だたる個性的な都市同士で結束関係が強くなれば、関西圏全体としての情報発信力がさらに高まります。日本はすでに人口減少社会に突入しており、都市間で共同して地域活性化策を考えていかないと地方創生活動の実効性も上がりません。
多地域にわたる対話を充実させながら、さまざまな視点で京都文化を捉えていくことが日本人が何を大切にしてきたかを考えるよい機会にもつながるでしょう。そのために知的交流する場の一つとして京都国際会館も活用していただければ同館をあずかる身としてうれしい限りです。
町衆文化の復活を
玉置◉私ども半兵衛麩は1689(元禄2)年に創業、「先義後利・不易流行」を家訓として守り続けてまいりました。前者は商い人としての心構えを、後者は、受け継がれてきた家の伝統は守りながらも、時代に合わせて新しいものも取り入れていくことを教えています。
中国から麩が伝わったのは当社創業以前の約400年前です。麩を使った新しい食の在り方を提案したのが当社の始まりでした。現在は世界遺産にも登録された和食文化の充実にささやかながらも貢献していると自負しております。和食は素材、器など全ての要素のつながりが大切です。どれかが欠けてもバランスが崩れますから、麩一つから心を込めてしつらえを仕上げていただけるように私どもは心掛けています。私は商家で育つ中で、知らないうちに商売上のやりとりや、しつけなどの生活習慣を身に付けました。生活に根差した京都文化をしっかり伝えていく場が実生活の中で機能していたのです。現代はグローバル時代になって変化の流れが速くなり、伝えるべき伝統文化がそぎ落とされているような危機意識を持っております。例えば私が幼いころには、出入りの職人さんのために、仕事の合間にお茶や、ちょっとしたお菓子などを出して休憩を取ってもらうことは常識とも言えましたが、いまの若い世代には、こうしたお付き合いや生活の知恵は、体験者がきちんと教えないと伝わりません。
一方、伝統を守るだけでは地域の発展は望めず、現代では新しいものを絶えず加えていかないと快適な生活もできなくなっているのも事実です。京都文化の伝承として何を変化させ、何を残していくべきなのか。『源氏物語』が記述されてから千年を記念して制定された「古典の日」に倣い、「着物の日」なども肩肘張らずに実施してみるのもいいかもしれません。かつての町衆文化力を復活させるためにも、京都文化とは何かをみんなで語り合う場が町の中にたくさんあるといいと考えています。