賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

思い描く、未来へ

drawing the future of tomorrow

- 2020元日 文化人メッセージ -

山科言親

長期的視野で問い続ける
知識と技術の伝承

山科言親
衣紋道山科流30代家元後嗣

山科家は代々、宮廷装束の調進と着装「衣紋道」を公家の家職として担ってきた。平安後期の藤原実教が当家の初代にあたり、私で30代目になる。明治維新以降も京都に残った数少ない公家の一つだ。
衣紋には山科流と高倉流の二つの流派があり、昨年秋の御大礼においても、両流派の家元で天皇陛下の御装束の着装をご奉仕させていただいた。
装束の着装は、男性も女性も着用者(お方様)一人に対して、衣紋者二人が前と後ろで一組になって息を合わせて進めていく。限られた時間の中で、お方様が儀式の所作をしやすい着付けになっているか、着崩れることがないようにするにはどうすべきかなど細心の注意を払いながら行うことが必要となる。儀式の裏方として自信を持って臨むためには、試行錯誤しながら、日々の稽古を積んでいくほかにない。
あまり普段着装する機会がない特別な装束については、先祖が書き残した古文書を改めて研究する。その成果を今回の着装にも役立てた。しかし着装の技術を絵図や写真、文書で伝えるには当然限界があり、最終的には人から人へと直接伝授していかなくてはならない。着装だけではない。装束に加え、儀式に用いる品々を製作するさまざまな分野の職人の方々も同じであろう。多くの過程を経て、一つの儀式が成り立っており、どれか一つでも欠けると他に影響が出るという緊張感が存在する。
御代替わりの間隔は近代以降長くなった。特に昭和の御代は長く、平成の御大礼の際は昭和の御大礼を経験された方がほとんどおられず、準備に大変な苦労をしたと聞く。今回は前回の儀式に携わった方がいらっしゃったことが大きかったといえるが、職人の減少や高齢化などの問題は確実に顕在化しており、知識と技術の伝承を楽観視することはできないであろう。
宮廷装束が衣服として本来あるべき姿を考えると、単に装束の着装披露や展示をするだけではなく、実際に着用される空間や儀式を共に守ることが大切だ。例えば天皇陛下が勅使を遣わされる三勅祭、賀茂祭(上賀茂神社・下鴨神社)、石清水祭(石清水八幡宮)、春日祭(奈良・春日大社)などの年中行事という場で実際に着られることが、いきた形での装束の伝統継承につながっているといえる。
長期的な視野を持ちながら、何をどのように後世に伝えていくのか。その問いを続けていくことが求められている。

◉やましな・ときちか
1995年京都市生まれ。同志社大経済学部卒。現在、京都大大学院人間・環境学研究科在籍。宮中の衣装である「装束」の調進・着装を伝承。NHK「日曜美術館」出演や歴史番組の衣装考証を行う。「言緖卿記にみる舞楽装束・道具調進の記録」「近世公家社会の成り立ちと実情」など講演多数。また、山科家旧別邸である源鳳院での講演会の監修も手掛ける。