賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

思い描く、未来へ

drawing the future of tomorrow

- 2020元日 文化人メッセージ -

ヤノベケンジ

先人たちの教えを糧に
アートで時代の先を照らす

ヤノベケンジ
現代美術作家

1933(昭和8)年開館の公立として2番目の歴史を持つ京都市美術館。そのリニューアルにあたって開かれた市民との対話集会でのこと。私は、美術館の前にある「大鳥居」の横に巨大な狛犬を置き、美術館の上にルーブル美術館のようなピラミッド型の太陽光パネルを設置することを提案した。いわばピラミッドとスフィンクスの関係だ。狛犬は「美の殿堂」である美術館を守護する霊獣として、鳥居前に置くことが相応しいと考えたからだ。残念ながら、その案は採用されなかったが、日本における狛犬の起源は平安時代の御所に描かれた障子絵から始まっており、平安神宮との相性もばっちりだと思ったのだ。
その後、比叡山延暦寺で開催された「照隅祭」で、彫刻の奉納展示を依頼された。そこで「にない堂」を見て狛犬のイメージが蘇った。「にない堂」は、常行堂と法華堂という、同じ形のお堂が合わせ鏡のように二つ並んでおり、渡り廊下でつながっている。奥に釈迦堂があり、ある種の門のようにもなっている。
そこでは現在でも厳しい修行が行われており、常行堂では90日間、本尊の阿弥陀如来の周りを、修行者が不眠不休で「南無阿弥陀仏」を唱えながら歩き続ける「常行三昧」が行われている。私が調査に行った8月の末頃、お堂から修行者のその声が聴こえてきたのである。「常行三昧」のことを知り、身が引き締まる思いとなった私は、現在の地球環境の悪化や人類の分断・対立、国際紛争などから世界を守る守護獣として、祈りを込めて「狛犬」を制作することにしたのだ。3日間だけの展示であったが、自分以外のことを思いながら制作したことで、アートの原点にあらためて触れられた気がした。
昨年は、国際芸術祭「あいちトリエンナーレ」をめぐって大きな騒動が起きた。アーティストが社会でこれからどのような役割を果たすべきなのか、大きな岐路に立っているように思う。現代において、アーティストの役割は広く、多角的になる必要があると思っている。アートには時代の先を照らす力があるからだ。それが独りよがりにならず、人々の融和や深い相互理解につながってほしい。
1970年の大阪万博後、解体されゆく会場で目にした「未来の廃虚」ともいえる記憶を原点に創作してきた私であるが、これからも日々自問自答しながら、偉大な先人たちに学び、未来の時代を切り開く新たな挑戦をし続けていきたいと思っている。

◉やのべ・けんじ
1965年大阪府生まれ。91年、京都市立芸術大大学院美術研究科修了。「現代社会におけるサヴァイヴァル」をテーマに放射線感知服「アトムスーツ」などを制作。2000年以降、テーマを「リヴァイヴァル」へと移行。東日本大震災後、希望のモニュメント「サン・チャイルド」を国内外で巡回。京都造形芸術大教授。ウルトラファクトリー代表。