賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

思い描く、未来へ

drawing the future of tomorrow

- 2020元日 文化人メッセージ -

馬杉雅喜

身近な地域に目を向けることが
平和な未来へと進む道

馬杉雅喜
映像作家

「未来」を考えたとき、世界平和について話したいと思いました。こう言うと「やすやすとそんなこと言うなよ」という空気が流れます。僕だっていつも考えてるわけじゃありません。基本、自己中心的に生きています。しかし「平和について」こそ、気軽に話すべきで、それが言えない空気が漂っている現状に「ヤバい」なと感じています。
近い未来、人は「数字」と「便利さ」から、今よりも解放されている必要があると僕は思います。そして、家族と友人、自然と故郷を思うことが、平和につながっていくと思います。
2017年、笠置町を舞台にした、僕が監督を務めた映画「笠置ROCK!」が公開されました。「過疎化が進む町を盛り上げたい」とのお話をいただき、「それなら町民全員で映画を作りましょう!」と企画しました。映画には、多くの人に見てもらう宣伝効果と、町に文化を育む力があります。何十年先も、お盆やお正月に家族が集まった時、この映画を肴に「あの時の町はこうやった」と話が盛り上がることが、文化と誇りを次世代に紡いでいくことにつながると思ったのです。映画がきっかけで30数年ぶりに町のお祭りが復活しました。
文化に興味を持つようになったのは、学生時代に海外を一人旅したのがきっかけでした。そして地域に関わる仕事を始めたのは東日本大震災からです。3年間、被災地でドキュメンタリーを撮り続けました。自分の町が変わること、無くなること、戻れなくなることがどういうことかをそこで目の当たりにしたのです。そしてその影響を直に受けるのが子どもたちだということも。
昨今、グローバルな人材が必要だとよく言われます。言語が話せることも大事ですが、ただ、それ以上に自身のアイデンティティーを語り、そのルーツを誇れない人は世界で通用しないだろうと思います。だからこそ、人材を育む魅力ある地域が大切です。魅力とは、そこに根付く文化と風景です。都市部だけが栄えても日本は良くならない。あちらこちらで同じような都市化を図っても、京都の未来は良くならない。身近な地域に目を向け、自分ができることを今やることが、平和な未来へ進む道だと思います。
と、こんなことを仲間と飲み屋で語り合ったりします。それを妻に伝えたところ、「平和への道はまず、寄り道せず早く家に帰ってくることからや」と言われましたが…。

◉ますぎ・まさよし
1983年京都市生まれ。日本写真映像専門学校卒、東映京都撮影所で現場スタッフを経験した後、2012年、シネマズギックスを設立。ミュージックビデオ、CMなどでディレクターを務め、17年映画「笠置ROCK!」で監督。20年冬、自身二作目となる、eスポーツを題材にした映画を公開予定。