思い描く、未来へ
drawing the future of tomorrow
- 2020元日 文化人メッセージ -
自然や人とつながる
「むすひ」の暮らし
福田季生
日本画家
祖母が暮らす古い日本家屋。その離れをアトリエとして制作を続けて、早5年となる。離れで過ごし始めると、祖母の暮らしは感じていた以上に豊かな暮らしだと知った。
早朝、町内を歩き、花をもらってくる。野の花や、ご近所の方から分けてもらった花、自宅の庭の花をそっと切り取り、玄関先の大きな花瓶に生けていた。気に入った花は挿し木して、いつの間にか祖母の庭の一部になっていた。「生け花は自然を家の中に取り入れるものだ」ということは、祖母の姿から教えてもらったように思う。いただいた野菜や庭で拾った栗を、昼食に出してくれた。たくさんの実りを結ぶ秋、私の作品も自然と黄金色に染まる。私の作品の黄金色は秋の稲穂の色であり、実りの色であり、結びの色である。アトリエで過ごしていると、日本家屋は、外に広がる自然とつながるように造られたものだと実感する。ガラスの引き戸を開けると、庭と地続きになり、桜の花びらが風とともに舞い込んでくる。祖母が日々の生活の中で育んできた自然とのつながりと、人とのつながり。懐かしい思いとともに、確かに知っていたはずなのに、どうして忘れていたのだろうか。
私の制作の根底には「祈り」があり、思想の根底に「結び」という考えがある。「結び」の語源は「むすひ」であり、「くくる」「束ねる」という意味合いの他に「約束をむすぶ」「人と人とをむすぶ」など、「縁」や「心をつなぐ」という意味でも使われている。
画中には四季の花々で彩られたきものを纏う女性の姿。作品の中から外へ、外から中へと緩やかに曲線がつながっていく。衣(ころも)のような煙のような、糸のようなもの。それらは自己(内)と外をつなぐ縁(むすび)を象徴するものとして作品中に登場する。円を描き、巡り、またつながっていく。世界中につながる広がりと相反するように、現代社会に感じる閉塞感は、これらの縁の糸が、無数に絡まってしまい、互いに身動きできないほどに縛り合っている故だろうかと感じる。世界につながる「むすび」の糸。けれど、本当に大切な「むすび」が、見えづらくなってしまったのではないか。
アトリエで制作しながら、確かにここにあった「むすひ」の暮らしを、私は作品を通して取り戻し、伝えたいと思っている。私はどれだけのことを祖母の姿から教わり、この先に伝えていくことができるだろう。
薄衣で触れるように優しく。世界が美しくあるように願いを込めて。
◉ふくだ・きはる
1985年奈良県桜井市生まれ。京都市立芸術大大学院絵画専攻日本画修了。故郷にアトリエを構え、暮らしに溶け込み四季の移ろいを彩る、人と風土をつなぐ衣服としての着物の今を描く。2012年、日春展入選、15年、改組新第2回日展入選、18年、第5回続「京都 日本画新展」優秀賞受賞。