賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

思い描く、未来へ

drawing the future of tomorrow

- 2020元日 文化人メッセージ -

西村勇也

想像力の時代。未来は
静かに見つかる時を待っている

西村勇也
NPO法人 ミラツク代表理事

より良い未来をつくるために、私たちに何ができるのだろうか。
人類は、700万年前に森を追い出された弱い猿として歩み始めました。力では子どものチンパンジーにも劣る人間が、世界中に生存圏を広げることができたのは、石を石斧として使い、火を調理に活用するという、テクノロジーを生み出す力を持ったからでした。2019年、カリフォルニア大学のリチャード・ミュラー教授が代表を務める非営利団体「バークレー・アース」は、地球上で観測史上最高の気温を示した地点が300カ所以上、夏(5~8月)の平均気温の記録を更新したのは1200カ所以上であったことを示しました。人類の生存の基盤を築いたテクノロジーが、人類を脅かすリスクでもある時代に私たちは生きています。石斧の誕生から260万年が経ち、テクノロジーは大きな進化を遂げたと同時に、地球自体にも影響を与えるほどの力を持つようになりました。そして現在、人工冬眠や光合成触媒など、さらに新たなテクノロジーが生まれ始めています。それらは新しい未来社会を実現する可能性でもあります。
ケインズが1930年に書いた『孫たちの経済的可能性』では、生産性が1%ずつ向上すれば100年後には労働時間が4分の1になると考えられていました。しかし、2030年を10年後に控えた今、生産性は高まった一方で、労働時間は減少していません。生産性は、その成果の行き先として何を選ぶべきだったのでしょう。
想像力の時代が始まろうとしています。役に立つかどうか、経済に寄与するかどうかという観点は、正解に向かって収斂する世界を生み出しました。そして、世界は76億人に増えた人間同士の必要のない競争を続けています。他者と競う社会では、想像力は相手に勝つ方法に向けられます。しかし、まだ実現できていない未来を求める社会では、想像力は自分たちの可能性の探索に向けられます。
思想家のトマス・モアは、1516年に書いた『ユートピア』で、「人々は勤労の義務を有し、日頃は農業にいそしみ、空いた時間に芸術や科学研究をおこなう」ことを理想的な生活として描きました。今の社会では役に立たないとされているものの中に、社会の盲点と未来の可能性があるはずです。
この1年が千年後から見たときに、「あのとき人類は大きく方向性を変えた」と言われる年になるとしたら、それは、私たちのほんの小さなものの見方の違いが生み出す創造ではないでしょうか。未来は私たちのすぐ足元で静かに見つかる時を待っています。

◉にしむら・ゆうや
1981年大阪府池田市生まれ。大阪大大学院にて人間科学の修士を取得。2011年にNPO法人ミラツクを設立。大手企業・組織の新規事業開発部門を中心に、未来構想の設計、未来潮流の探索、オープンイノベーション支援ツールの開発などに取り組む。理化学研究所未来戦略室イノベーションデザイナー、大阪大SSI特任准教授などを務める。