賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

思い描く、未来へ

drawing the future of tomorrow

- 2020元日 文化人メッセージ -

中村宗哲

変えてもよいこと、
変えてはならないこと

中村宗哲
塗師

茶の湯のものづくりは使い手である茶人がどのような茶会をされるのかを考えて行う。もてなす側の亭主と客が道具を通じて心を通わせてひと時を過ごす茶室という空間で、他のさまざまな道具との取り合わせをも考えたものづくりである。
わが家の塗物づくりは、千利休が好まれた利休形の形と寸法を変えてはならない「型」として復元再制作することが大切な仕事の一つである。各時代の宗匠方の新しい作品は「好み」と呼び、意を匠み技を重ねたもう一つの仕事である。それらは茶人の共通認識として伝わっている。
制作方法も記した「寸法帳」と、寸法と型を木の板に刻んだ「切り型」、蒔絵の図案転写に用いる薄紙に図案が描かれた「極め型」を使い、今日まで制作を続けている。その他に「憶帳」という極め型や下絵を貼り付けた図案帳がある。五代宗哲が天明の大火(1788年)に遭い、それまでの大切な資料が焼失したこともあり、資料を残すことの大切さを感じ、その後残した図案帳である。和紙製で厚みは10㌢ほどあるが持つととても軽い。先々代の祖父も新たな憶帳を残している。それらの憶帳は今も図案を考案する時に参考にしている。美しい色付きの下絵もあり、子どもの頃から祖父や母から絵本のように見せてもらうのが楽しみであった。その絵や文字から歴代の意向や人柄がメッセージとして伝わってくる。後の代の者が困らぬように作品をつくるたびに記録を書き残してくれていたのであろう。
今も新作をつくる時には、昔と変わらぬ方法で寸法や型を必ず記録して残している。このような資料は時代の主流であるパソコンで管理した方が効率よく便利と思われることもあるが、憶帳をパラパラとめくったり、資料を机に並べてみたりすると、さまざまなアイデアが浮かんでくる。何度も手書きで図面を引き、下絵を何枚も描いている間に形ができていく。時間がかかり効率の悪い仕事であるように思われるが、この作業が依頼主の意をくみ取る大切な時間のように思う。
今の時代は展覧会を開催することも多くなり、自分自身でさまざまな場面を思い浮かべながら、時代に必要とされるものづくりもしている。昔ながらの方法で図案を考案するが、効率よく作業ができるよう、時には新素材の便利な道具を使用することもある。
次々と変わりゆく世の中で、変えてもよいこと、変えてはならないこと、それらを見極めることが大切である。

◉なかむら・そうてつ
1965年、父三代諏訪蘇山、母十二代中村宗哲の次女として生まれる。京都市立銅駝美術工芸高漆芸科卒。京都市伝統産業技術者研修漆器コース・デザインコースを修了。家業に従事。2006年十三代を襲名。各地にて中村宗哲展を開催。先代とともに始めた「哲公房」では伝統を踏まえつつ現代の暮らしに合う漆器を提供。18年、京都府あけぼの賞を受賞。