賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

思い描く、未来へ

drawing the future of tomorrow

- 2020元日 文化人メッセージ -

東儀秀樹

要は語学力にあらず
真の国際人に必要な文化力

東儀秀樹
雅楽師

日本人は「イエス」「ノー」をはっきりさせない、とよく外国人から言われるが、今では国内、つまり同胞の人間からも同じ指摘が起こる。「グローバルに対応できる国際人として『イエス』『ノー』をはっきり主張できる人間に!」ということなのだが、どうもしっくりこない。本当にそれでいいのか。もちろん政治や経済などの分野においては中途半端な話では相手にされないし、なんでも丸め込まれてしまう。しかし、国際交流はそれだけではない。ビジネスライクにはいかない物事もたくさんある。グレイゾーンとよく呼ばれる部分だ。
日本人はこのグレイゾーンをとても大事にする傾向がある。文学にしても、「行間を読む」というのがあり、演技や演奏、振る舞いなどには「間」が重視され、空気を読むことが大切にされる。結果が出ても実は本当のところはどうなのか、と後ろ髪を引かれるような気持ちが残ることもある。「後ろ髪を引かれる」という表現にしても、相当独特な表現だ。
雅楽の演奏方法に「塩梅」というのがある。これは普段使う「あんばい」の語源とされているが、メロディーを単に直線的に表現するのではなく、音を滑らかに擦り上げて到達させたり、下げたり揺らしたりと抑揚をつける奏法をいう。直線的では味気ないから味付けをする、だから「塩」と「梅」と書く。この塩梅も音と音の間の定められない「適宜な具合」の表現である。しかし、それがあるから目的の絶対的な音が生きる。グレイゾーンがなくなると味も素っ気もなくなってしまう。
日本人は昔から優しい。戦いを望まない。だから決め事でもどこかしらに相手の意見の余地を持とうとして、折り合いをつける方向を選ぶ。平和主義なのだ。相手の反論も聞こうとする勤勉で公平な気持ちを持ち合わせている。これが日本人の個性だ。日本人はこういうものなのである。だから海外に出ても「白黒はっきりさせないといけない」という強迫観念に悩まなくてもいい。「はっきりしないな」という空気を感じたら、「だって私って優しいの」と言ってのけるのもいいじゃないか。そこで日本の文学のことや芸能のこと、習慣を例に挙げれば、それこそ有意義な国際親善に発展する。そんな時のためにも、日本人は日本の内側をよく知り、誇りに思うことが重要になってくる。互いの文化を尊重できること、それが真の国際人だ。だからこそ国際人の本当の要は、語学力にはあらず文化力なのだと思う。

◉とうぎ・ひでき
1959年東京都生まれ。東儀家は、奈良時代から雅楽を伝えてきた楽家。父の仕事の関係で幼少期を海外で過ごし、ロック、クラシック、ジャズなどあらゆるジャンルの音楽を吸収。高校卒業後、宮内庁楽部に入り、篳篥(ひちりき)や歌、舞などを担当し、宮中儀式や国内外の公演に参加。96年に宮内庁を退職後はフリーの雅楽師として活躍。