賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

思い描く、未来へ

drawing the future of tomorrow

- 2020元日 文化人メッセージ -

高御堂和華

「生まれ育った町に誇りを持ち
新しい未来をつくる

高御堂和華
南丹市美山観光まちづくり協会
事務局長

美山町は、日本の原風景と呼ばれる「かやぶきの里」で知られる人口3700人ほどの町である。町の東部には芦生の森が広がり、清流由良川が町の中心部を流れる。
大学進学を機に美山を離れ、20カ国以上を旅して気づいたのは、自分がいかに素晴らしい場所で生まれ育ったかということだ。何百年と続く伝統文化が暮らしに息づき、カーテンを開けると山紫水明の眺めがそこにある。作り手の顔が見える米や野菜が食卓にあがる。地域の先輩方は地域の歴史を誇らしく語り、自らの手で地域を守ろうと何十年も地域振興、景観保全に取り組んでこられた。
そうして連綿と受け継がれた里山の暮らしや美しい景観を求め、今では国内外から年間約70万人の観光客が訪れる。海外からの注目度も高くなり台湾や香港を中心に多くの訪日外国人観光客も訪れるようになった。1、2月の宿泊者の約4割は海外のお客さまが占めるほどだ。5年前から受け入れを始めた訪日農山村教育旅行は、台湾やタイ、オーストラリアの学生が一般家庭の暮らしを体験する人気のプログラムである。1泊2日の短期滞在であっても、学生の目には涙が浮かぶこともある。
私自身、幼少期には都会から離れた田舎にこれほど多くの外国人が訪れることなど想像もできなかったが、里山の景観、それと不可分の里山の暮らしが価値あるものとしてグローバルに認められているのだと強く実感する。
かやぶき屋根には今も人が住まい、農村風景を見ることができる。そうした暮らしを求め都市部から移住する若者も増えている。
美山の方言に「てんごり」(手間返しの意味)という言葉がある。かやぶき屋根は一定の年数がたつと葺き替えが必要なのだが、昔は村中の人が一つの家の葺き替え作業を手伝った。現在手間返しで葺き替えるところはほとんどないが、てんごりの精神は現在も受け継がれている。互いに助け合うことで支え、気遣い合うことでコミュニティーを維持してきた。
過疎化や人材不足など地域課題は山積しているが、共に助け合いながら、美山に暮らす仲間が増え、持続可能な地域が実現することを期待している。
自分の生まれ育った町に誇りを持ち、これからも地域に暮らす人々とともに新しい未来をつくっていきたい。

◉たかみどう・わか
1993年京都府美山町(現南丹市)生まれ。神戸大卒。在学中英国シェフィールド大都市計画学部へ留学。卒業後、一般社団法人南丹市美山観光まちづくり協会に就職し、18年より同協会事務局長。南丹市景観審議委員会委員、南丹市地域創生会議委員も務める。英語全国通訳案内士として、訪日外国人観光客の案内も行う。