思い描く、未来へ
drawing the future of tomorrow
- 2020元日 文化人メッセージ -
「意識」をもって、物を大事にする
日本古来の「余裕」を
SHOWKO
陶芸家
日本人は勤勉である。しかしその勤勉さは昨今、うまく機能していないように感じる。残業や過酷な労働環境は増えて生活は仕事と切り離され、その重心は逆転している。もはや豊かな生活のために仕事をしているのではなく、仕事のためになんとか生きているという状況である。生活が雑になると、なぜか物が増えていく。ちまたにも物が溢れかえっている。これほど物に翻弄される時代はきっとこれまでなかったのだろう。
「断捨離」という言葉が日常的に使われるようになった。初めて世の中に出たのは、1970年代のことらしい。
私の仕事は、人に物語を伝える陶芸作品をつくること。自分の生活を大切にして初めてよい仕事ができると感じた去年。選び抜かれた最小限の物のある、シンプルな生活に立ち戻ることで、初めて仕事のパフォーマンスが上がる。たくさんの物を持たない方が、メーカーとして良い仕事ができるというのも面白いジレンマである。メーカーとは何を売るのか。
日本人は昔から、生活の中で工芸品を大切に用いてきた。経年劣化を楽しみ、時間をかけてその工芸品を育てていった。それは、職人がその商品を作ったことと同じくらいに心を持って接してきた。時に繕いながら、同じ品物を子や孫の代まで受け継いだ。現代、残念ながら工芸品は大量生産品の同じ種目と価格で比較されてしまう。その後に、「何日かかったか、どれだけの材料を使っているか」ということを聞かれる。もちろんそれも価格の一つの指針ではあるが、その向こう側にある哲学を尋ねてほしいと思ってしまうのは、作り手のエゴだろうか。
一夜飾りは良くないから、お正月のしつらえは大晦日ではなく30日にお飾りする。茶道具の陶磁器は湯通ししてから片付ける。着物も前日に色合わせをして準備し、当日に着て、明くる日に当日のことを思い出しながら丁寧に畳み、片付ける。
日本文化はとかく余裕が必要である。精神的にも、時間的にもそうだ。「余裕」という言葉を使うと、一部のゆとりのある人々だけを想像するかもしれないが、そうではない。一つの物を大事に使い、一つ一つの自分の動作、その行為に「意識」をもって接していく。そうすると物は多くなくても、物との思い出は積み上がってゆく。
日本はこれから人口が減少し、マーケットも縮小していく。だが、悲観的になることはない。戦後復興、経済成長を経験した日本。だからこそ、これから世界に唱えられることは数多くある気がしている。
◉SHOWKO(しょうこ)
330年続く茶陶の窯元に生まれる。京都にて陶芸の基礎を学び、佐賀県の陶板画作家、草場一壽氏に弟子入り。2005年に京都に戻り、陶板画作家として活動を開始。自身で物語を執筆したものに沿って展開する器のブランド「SIONE(シオネ)」を立ち上げる。アートワークからもてなしの時間を創造し、国内外にて展覧会を開催。