賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
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- 2020元日 文化人メッセージ -

グエン・ヴー・クイン・ニュー

「俳句」は、美しい国を目指すことの
大切さを教えてくれる

グエン・ヴー・クイン・ニュー
国際日本文化研究センター
外国人研究員

 さまざまの事おもひ出す桜哉

桜を観て、「さまざまな事」に実感を込めた松尾芭蕉の句だ。言葉は平易だが忘れられない句である。どうしてだろう。芭蕉の句だと言われた途端に名句だと思ってしまったのか。「さまざまの事」をどのように連想すればよいのかを少し考え、「いま私の眼の前に、圧倒的に咲き乱れる桜がある。花がある。その花とともにあなたがある。その思い出が私を圧倒する。いま、花はあなたです。あなたが花です。私の眼の中いっぱいの桜です」という解釈に思い至った。
俳句は今や日本のみならず世界で鑑賞されている。ベトナムでは、2007年から「日越俳句コンテスト」が開催され、一般市民の間でも俳句づくりがブームになっている。日本では必須である「季語」を入れずに、素朴で時には気付かぬ周辺の美しいものを見つけ出し、時には社会問題も入れ込んで俳句を詠んでいるところに特徴がある。昨年12月10日に開催された第7回日越コンテストでは、次の俳句が第1位に選ばれた。
「Cà phê ngày tình nhân/hai màn hình hai điện thoại/chiếu sáng hai mặt người(バレンタインデーのコーヒーは 2つの電話の2つの画面 2人の顔を映し出す)」(ラム・ロン・ホー作/ニュー意訳)
先端技術時代の縮小社会の中で、バレンタインデーという特別な日をカップルで過ごしているにもかかわらず、ただ無言で携帯電話の光の中でお互いが孤独に過ごしている姿が詠まれている。生活環境が激変していくと考えられている現代の社会状況の中での人間の生き方が伝わってくる句だ。
国際化する時代において、俳句はそれぞれの国における豊かな自然をも表す。在ホーチミン日本総領事館の河上淳一総領事は表彰式の挨拶で、「クーロンの恵みゆたかに春祝う」という自作の句を紹介した。ベトナム南部のメコンデルタに、自然に流れ込む雄大なメコン川は、別名クーロンと呼ばれ、春というベトナム人にとってのテト(旧正月)と馴染んでいる。正月は日本では新暦だが、ベトナムでは旧暦で祝われる。生活の中に新暦と旧暦の行事が混在しており、それ故に多種多様な年中行事を楽しめる。一年を通して旧暦の月ごとに自然環境、生活文化、風俗習慣、人間の生き方などに変化が現れる。このように、俳句はそれぞれの国の自然の豊かさ、心の豊かさを追求し、美しい国を目指すことの大切さを教えてくれるのである。

◉グエン・ヴー・クイン・ニュー
1969年ベトナムホーチミン生まれ。ベトナム国家大。ホーチミン市人文社会科学大講師。国際日本文化研究センターで「俳句の変化」「歳時記の作成」「国際化時代の新たな日本古典学―ベトナムにおける教育実践の研究―」などを研究。著書に『古くて新しいもの―ベトナム人の俳句観から日本文化の浸透を探る―』『俳句:発祥・発展の歴史 及び詩形の特徴』ほか。