賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

思い描く、未来へ

drawing the future of tomorrow

- 2020元日 文化人メッセージ -

加藤結理子

ひとが持つ美意識と感性

加藤結理子
千總文化研究所 所長

「技術」「京都」「美」をテーマに、小袖や法衣、友禅染や刺繍の染織品のほか、絵画作品などを通して、有形・無形の文化財の「文化」を学際的に研究し、後世に伝えていくための活動を行っています。
例えば円山応挙の絶筆として知られる「保津川図屛風」や春日大社の「若宮おん祭」で供される「千切台」などについて、学識者の方々に千總と作品との関係性や歴史的背景を紐解いていただきながら、作品を鑑賞していただくことで、現代におけるその意義を発信しています。
有形の文化財の調査・研究と同様に、無形文化財へのアプローチもさまざまな学術関係者、技術者の方々と進めています。感じるのは、伝統技術継承の難しさです。着物は20を越える工程があり、農学、化学、工学といった学問との関係が不可欠で、染め、織りの高度な技を持つ技術者が巧みに連携して完成します。材料や道具を含め、一つも欠くことはできません。後継者の育成も急務ですが、社会背景も複雑に絡み合い、簡単には進まないのが現状です。技術を言語化、映像化するなど、記録として残す活動も始めていますが、それだけでは本当の意味での継承にはつながらないのではという危機感があります。
人口知能(AI)が急速に発展しつつある昨今、ひとが「ものをつくる」ということを再考する時が来ているように思います。ひとの創造力、その土地の記憶とともに育まれてきた繊細な美意識や感性が、「ものづくり」には欠かせません。もし「ものづくり」を、ひとの手を介することなく、一切を機械に委ねてしまった時、ものの良しあしを理解し美しいと感じる心と、そこに存在していたはずの目に見えない大切なものは残っていくのでしょうか。
過去から受け継いできたすべての「文化」が尊いのか、それは分かりません。しかし、例えば色彩について、先人たちは自然を愛しむ心とともに「常盤色」「朽葉色」「若菜色」「海松色」「鶸色」といった色を表す豊かな言葉を持っていました。翻って、現代に生きる私たちは、「緑」や「グリーン」といった言葉で簡単に一括りにしてはいないでしょうか。色の背景にある文化とともに失った感性が、そこに存在しているのではないでしょうか。
過去に戻ることは誰にもできませんが、未来を築くことはできます。「技術」「京都」「美」が、これからの社会に本当の意味で必要とされる、そう信じて、多くの方々とともに連携・協力して歴史や文化、芸術活動の一端を担っていきたいと思っています。

◉かとう・ゆりこ
1984年熊本県生まれ。同志社大文学部卒。2007年、千總入社。千總ギャラリーのキュレーターとして、千總が所蔵する絵画や染織品の企画展示を担当。17年、一般社団法人千總文化研究所を設立、所長就任。千總の有形・無形の文化財を核とした学際的研究から、新たな創造と日本文化の継承を目指し、活動を展開している。