思い描く、未来へ
drawing the future of tomorrow
- 2020元日 賛同企業代表者メッセージ -
「故郷の喪失」という未来
木越 康
大谷大学 学長
大学の仲間たちと山間の過疎地域調査に入っています。少子高齢化と併せて進む都市圏への人口集中によって、日本中に限界集落が現れています。利便性や経済効率などから人が街に集まる一方で、村には空き家と荒廃農地が多く出現しています。そんな村で、昔のままに暮らす老人たちがいます。
話を聞くと、夏のお盆には村を離れた子どもたちが孫を連れて帰ってくると言います。提灯に灯を入れてご先祖さまをお迎えし、ごちそうを食べて村中が賑わいます。すべての者が故郷に集い、交わり語るのです。しかし老人たちには、この賑わいにもやがて終わりが来るのだという覚悟と不安があります。覚悟は自らの命への覚悟であり、不安は村の命への不安です。誰も帰らなくなる故郷で、永遠の眠りにはつけません。忘れ去られる故郷で、家や田畑と同じように放棄されることを望まないのです。故郷の喪失は、眠る場の喪失であり、集う場の喪失であり、帰る場の喪失でもあります。
人間には環境を変える力がありますが、創りだした環境によって自身が変えられることを防ぐ力はありません。故郷を失い、つながりの場を喪失する人間は今後どのような存在になっていくのでしょうか。未知の領域に向かう不安は、環境の変化ではなく人間の変化への方がより大きいといえるでしょう。
大谷大学
京都市北区小山上総町
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