賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

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〜次世代のメッセージ〜

inherit to the future

- 2019元日 文化人メッセージ -

西本清一

分析的なロゴスではなく
全体を把握するパトスの重要性を

西本清一
(公財)京都高度技術研究所 理事長 (地独)京都市産業技術研究所 理事長

「もの(道具)を作る」、さらに「機能の異なる道具を作ってものを作る」、そして細大漏らさず多くの工程を経つつ、美に対する感性に導かれた創意工夫と切磋琢磨でついには普遍的に美しい「ものを創る」に至る行動は、人間に備わった固有の能力であり、人間は本質的に絶えず創造し続ける存在なのだろう。その上で、遊びの心がいくつも芽生え、それらが培養する成熟の風土が整えば、「ものづくり」の行為そのものが文化価値を帯びるようになる。それこそが京都の「ものづくり文化」の本質ではないか。多様な伝統工芸分野の工房を訪れるたびに、そのような感想を抱かされる。作業の現場には、全行程の中でほんの一度切りしか使われないものも含め、実に数多くの道具が並んでいる。その大部分は手作りの道具である。現代人の祖先にあたる人類の成立は、道具を自ら作った約200万年前に遡る。道具の製作こそ文化の最も原初的な形態であり、人類の成立にとって革命的な出来事であった。
日本人は古くから固有の土着文化と渡来文明・文化の多層構造を受容し、多様性を保持しつつ、新たな成熟を見いだしてきた。その基底を成すセンター機能を京都が担った。渡来した文明や文化をすべて受容した後、採り入れたものを真似ぶ(学ぶ)、模倣の段階に入る。模倣を繰り返している間に、次第に変容の段階に進み、やがて成熟の域に到達すると、受容したものとは似て非なる日本オリジナルに昇華されている。その原動力は、大自然に対する畏敬の念と憧憬に由来する、日本人独特の美意識や遊び心であろう。受容から成熟までのプロセスにおよそ300年を費やしている。
どの伝統工芸分野でも、節目ごとに大きな技術の革新や斬新な意匠が生まれ、現在まで伝えられてきたに違いないが、おしなべて坦々と技術が継承されているようにみえるのは、京都の歴史や風土の力が陰に陽に作用しているからだろう。ある伝統工芸士に「工芸に必須の感性とは何か?」と問うたところ、「五感すべてで情報を丸ごと捉える力」との答えが返ってきた。西欧近代科学では、論理的な思考と客観的事実を支える分析的なロゴス(論理)の働きがもっぱら重視されてきたが、京都の伝統工芸には、全体を把握するパトス(感情)の援用が欠かせない。京都の先進産業の多くが、伝統工芸を基盤として大きく成長した所以でもある。京都が大切にしてきたパトスの作用にも合理性を認めるべき時代が到来している。

◉にしもと・せいいち
1947年、奈良県生まれ。京都大大学院工学研究科博士課程修了。京都大教授、工学研究科長・工学部長などを経て、(地独)京都市産業技術研究所と(公財)京都高度技術研究所の理事長を兼任。京都地域の科学技術振興のほか、ベンチャー・中小企業を中心に、京都経済を担う企業の発展を支援する業務に従事。専門は高分子化学、物理化学。