賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

未来へ受け継ぐ
〜次世代のメッセージ〜

inherit to the future

- 2019元日 文化人メッセージ -

土井隆雄

千年の歴史を持つ京都で
千年先の未来を想像する

土井隆雄
宇宙飛行士

枕草子の中に「星はすばる」という有名な文がある。京都の夜の街を歩く時、清少納言のこの「星はすばる」を思い浮かべて、空を見上げる。千年前の京の都の空は、さぞや暗く星が降るように輝いていたことだろう。「すばる」は冬の夜空に見えるおうし座のプレアデス星団の日本名である。プレアデス星団は、肉眼で見ると七つの星が四角形に小さく密集して見えるが、実は地球から約450光年のかなたにある生まれたばかりの100個ほどの若い星の集団である。日本の四季の自然は美しいが、星の美しさもまた日本人の心の中に大切に刻み込まれている。
1985年に始まった日本の有人宇宙活動は、2008年に国際宇宙ステーションに日本実験棟「きぼう」が取り付けられて以来、本格化した。日本人宇宙飛行士による長期宇宙ミッションも定常的に行われるようになった。2020年代には、有人宇宙探査活動にも日本が参加することが伝えられている。いよいよ、人類は再び月に戻り、そしてはるか火星まで行こうとしている。日本は、そして世界は、この先宇宙にどのように展開しようとしているのだろうか。京都の街を歩きながら私は、千年先の人類の未来を想像するのが好きだ。千年の歴史を持つ京都にいるからこそ、千年先の未来が夢ではなく現実味を帯びて感じられる。
約500万年前アフリカに住んでいた霊長類の祖先のうち、人類の祖先だけが森からサバンナに降りて二足歩行を獲得し、世界に広がり、そして今の人類に進化したといわれている。走るのも速くなく、鋭い牙もない人類は、どのようにして安全な森を離れて生き延びることができたのだろうか。道具を使うことを学び、また火を使えるようになったからだろうか。いや、人類が生き延びることができたのは、人類が社会を作りお互いに助け合うことができたからに違いない。それならば、私たちが宇宙に展開し発展を続けたいと思うならば、宇宙に人類社会を作らなければならない。
人類は、宇宙に社会を作ることができるのだろうか。宇宙の最初の社会はどこにできて、何人の人が暮らすのだろう。空気やエネルギーをどこから手に入れ、食料はどのように生産するのか。安定な社会形態はどのようなものだろう。次々と新たな疑問が湧き出てくる。
今、私たちはこの京都で宇宙に社会を創る研究を始めた。私は夢を見る。千年先の未来、人類が「すばる」の星たちを訪問していることを。

◉どい・たかお
1954年、東京都生まれ。83年、東京大大学院工学系研究科博士課程修了。04年、ライス大大学院博士課程修了。97年、スペースシャトル「コロンビア」に搭乗。日本人初の船外活動を行う。08年、「エンデバー」に搭乗し、国際宇宙ステーションに船内保管室を設置する作業を担う。16年4月より京都大宇宙総合学研究ユニット特定教授。専門は有人宇宙学、宇宙工学、天文学。