賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

未来へ受け継ぐ
〜次世代のメッセージ〜

inherit to the future

- 2019元日 文化人メッセージ -

田中恆清

日本の伝統文化の形と心を継承して
世界に発信していく

田中恆清
石清水八幡宮 宮司

明治以降の急激な西欧文明の吸収と近代化、そして戦後の個人主義の浸透は、日本人の伝統的価値観や精神性、受け継いできた文化や風習を崩壊させ、現代社会を不安定な混迷の時代へと向かわせてきました。
日本の伝統文化は、「形の文化」とも称されることがあります。茶道、書道、武道、歌道などのように、それぞれの伝統文化は「道」と呼ばれ、初学者は師匠の動きを真似て、その形の反復稽古を繰り返し、自らの身体に覚えさせていきます。即ち日本の伝統文化を学ぶことは、その文化の形を学び、日々実践し、自らの生きる規範として日常の生活にも反映させていくことであり、それが「道」と呼ばれる所以ともなるのです。
古来日本人は文化の形の中に、本当に伝えたい「心」を内包させ、それを「形」として具現化し継承してきた民族であります。つまり形の継承こそが、心の継承であり、形が崩れることは、心が崩れることであると日本人は考えてきました。それ故に、子どもたちへの躾、礼儀作法、基礎教育においても「形」の習得による教育が行われてきたのです。日本人の精神と伝統文化の継承は、正しい「形」の継承によって行われてきたといえるでしょう。
日本人の伝統的信仰である神道においても、「形」と「心」は継承されてきました。神道は、古来「惟神の道」とも称され、それは神々と共に生きる日本人の生き方を示す規範でもありました。神道における「心」とは、神々へと捧げる「清き明きまことの心」であり、その心は神々への祭祀として体現され、現在でも各神社において、厳粛に神事が斎行されています。日本人は祭祀という形を実践することにより、古来受け継がれてきた神道の心を継承してきたのであります。
本年はいよいよ御代替わりの佳節を迎え、改元が行われ、国家の重儀である儀式が、伝統に則り斎行されていきます。日本の伝統文化の誇らしさ、素晴らしさを改めて実感する一年となります。しかしながら現代社会は、新しい思想の台頭と価値観の多様化によって、古来継承してきた日本の伝統的な「形」が崩れ、日本人の心が大きく揺らいでいる不安定な時代でもあります。そのような時代であるからこそ、平安朝の時代より日本の伝統文化と精神を継承してきた古都、京都の果たすべき役割はますます大きくなってきているのではないでしょうか。これからも歴史ある京都の地から、受け継いできた日本の伝統を世界に発信して、日本の心を次世代に伝えていっていただきたいと願っております。

◉たなか・つねきよ
1944年、京都府生まれ。69年國學院大神道学専攻科修了。平安神宮権禰宜、石清水八幡宮権禰宜・禰宜・権宮司を経て、2001年石清水八幡宮宮司に就任。02年京都府神社庁長、04年神社本庁副総長を務め、10年神社本庁総長に就任。