賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

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〜次世代のメッセージ〜

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- 2019元日 文化人メッセージ -

橘  重十九

和の心、和の魂
「和魂漢才」の精神を思い出す

橘 重十九
北野天満宮 宮司

昨年は明治維新150年であり、幕末の激動地であった京都では、それにちなむさまざまなな行事が行われました。菅原道真公(菅公)を祀る北野天満宮でも、戊辰戦争の際、有栖川宮に伴い官軍として戦った山国隊の姿を伝える鼓笛隊の参拝があるなど、各種の催しがありました。
明治の急速な近代化の背景には、日本人の知識の高さがあり、そこには〝天神さん〟の図像を掲げて「読み・書き・そろばん」を教えた江戸期の寺子屋教育が礎となったとされています。もう一つ、単なる知識だけではなく、日本人が「和魂洋才」の精神で邁進したからともいわれています。西洋の進んだ学問や文化・技術を取り入れる際には、日本の魂を忘れない、つまり日本の価値観や風土に合わせたものとして近代化が進められたのです。明治に入って盛んに主張された「和魂洋才」は、菅公の「和魂漢才」の言葉からきたものです。漢才とは、当時の先進地中国の文化です。いくら進んでいるからといっても、やみくもにそれを取り入れることへの警鐘を鳴らした言葉なのです。1100年も前に菅公が示されたことが、近代国家建設の支柱になったことを忘れてはなりません。
菅公は没後44年、神として北野の地に祀られ、その40年後、一條天皇から「北野天満大自在天神」の神号を賜わり、以後、北野社への行幸が行われるようになりました。そして今、全国にある約8万社の神社のうち1万社以上が〝天神さん〟となったのです。政治家・学者・詩人・教育者、さまざまな顔を持たれていただけに、「学問の神・書道の神・詩歌の神・芸能の神・正直の神」など、天神信仰は多様な展開をしながら全国へ広がったのです。
さて、今年4月末で今上陛下は御譲位され、皇太子殿下が御即位されます。元号が変わり新しい時代を迎えます。日本は世界でも有数の経済大国となりました。しかし、グローバル化が進展する中でのネット社会は、富や便利さと引き換えに思考する心を奪いました。生命に対する軽視の風潮は目に余るものがあります。自然の中に霊性があり、畏敬と感謝、畏怖をもって自然と接してきたかつての日本人は、いったいどこへいったのでしょう。
新しい時代を迎えるにあたり、私たちがどこかに忘れてきた大切なものを思い起こさねばなりません。それはもはや先端の知識ではありません。和の心、和の魂です。高度に進んだ文明の中で、菅公の「和魂漢才」の精神をいま一度思い出すべきでしょう。

◉たちばな・しげとく
1948年、石川県生まれ。延喜式内社宮司社家25代に生まれる。会社員を経て74年より北野天満宮に奉職。禰宜、権宮司を経て、2006年から現職。その間、北野天満宮ボーイスカウトの創設に尽力。京都府神社スカウト協議会会長として青少年育成活動に努めた。全国天満宮梅風会副会長。京都府神社庁理事。