賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

未来へ受け継ぐ
〜次世代のメッセージ〜

inherit to the future

- 2019元日 文化人メッセージ -

武智美保

「世界は一つ」。文化の「つながり」が
世界平和に繋がる

武智美保
シアター/アートプロデューサー

イタリアのローマで起業して、今年で34年になります。初めての国際交流の仕事が、筑波EXPOでのイタリア館・イタリアンナショナルデーのプロデュースでした。そして、ミラノの映像集団、スタジオ・アッズーロと出会い、彼らのエージェントとなったことが私の一つのきっかけとなりました。同時に、能楽と関わりだした年とも重なります。その1年前、ローマで現在の金剛流宗家の父上、故金剛巌師による薪能を観る機会を得ました。なんと会場はスタンディングオべーション。「お能の公演でスタンディングオべーション?」驚きとともに、魂が揺さぶられました。その企画は一般公演の後、バチカン市国で法王列席の下、奉納されました。この時、私はなぜか自分でも分からないまま、自分の仕事の締めくくりはバチカンへのお能の奉納公演だと心に誓ったのです。
その機会が一昨年、宝生流宗家と金剛流若宗家との合同奉納という形で訪れました。「こんなに早く私の仕事の終わりが来る、何で?」と、半ば少しがっかりしながら「翁」という特別な演目の奉納準備をしていたところ、ある思いを持ちました。翁の装束の蜀江錦の文様が、イタリアの教会の中にも見られるのです。西の地中海文明をテーマにしたスタジオ・アッズーロと東の伝統芸能である能楽。「私の仕事がどうして?これは関係がある?どうして惹かれるの?」そんな思いです。それらはシルクロードで繋がっていたのです。文化は振り子のように往来し、今日まで成熟してきた―このとき、それに気付いたのです。
「世界は一つ」。このような一つ一つの文化の「つながり」が世界平和に繋がるのだと確信に近い思いを持ちました。直感と閃きです。アートや芸術は平和の心と繋がらないといけない、そして、文化は薄めてはいけないということです。最近、京都がアミューズメントパークのようになってきていることに時々胸が締め付けられます。
人生の指針を見つけた今、世界を結ぶ文化の響宴やシルクロードを巡る思いなど、いろいろな思いが仲間と共に形になってきています。これからシルクロードから地中海へ向けての長い旅が始まります。その始まりは蜀江錦文様が現存する西陣から、そして、ペルシャ方面を目指し、地中海へと向かいます。今年はウルムチくらいまででしょうか。
全ての出会いとご縁に感謝しつつ。

◉たけち・みほ
京都生まれ。同志社大卒業後スイスチューリッヒへ留学、チューリッヒ州立工芸大でデザインを学ぶ。その後、イタリアローマで起業。シアター・アートプロデューサーとして活動を始める。文化・アートイベントの企画制作、アーティストのプロダクションを多く手掛け、「保存する文化遺産」から「使われる文化遺産」への活動を行っている。