未来へ受け継ぐ
〜次世代のメッセージ〜
inherit to the future
- 2019元日 文化人メッセージ -
人間の感性や感情こそが
次代のテクノロジーが目指すべき方向
高橋智隆
ロボットクリエイター
日本の経済力の衰退が危惧される中、今や国中が「イノベーション頼み」です。しかしイノベーションは何らかの転換期にこそ起きやすいので、このピンチも良い機会なのかもしれません。これまで日本は、欧米で発案された製品を基に、高品質・高性能・高機能化することによって経済成長を果たしてきました。しかしながら、既に多くの製品は十分な性能を有し、使い切れないほどの機能を備えています。当然、多くの消費者が「これ以上」を望まなくなってしまいました。そんな状況になり始めた10年前に生まれたイノベーティブな製品が「iPhone」です。
日本の「禅」に傾倒していたスティーブ・ジョブズは、機能を削ることにより人々の感性に訴えかける商品を完成させました。使い勝手や愛着など、置いてきぼりにされていた人間の感性や感情こそが、次代のテクノロジーが目指すべき方向なのです。
私は、その究極形がコミュニケーションロボットだと考えています。人間は人や動物、そして人形にすら特別な感情を抱いてしまいます。われわれは、ペットの金魚にすら声を掛けるのにもかかわらず、スマホの高性能な「音声認識機能」をめったに使いません。旅先の写真を全て蓄えているのに、「スマホと出掛けた」とは思わない。そんなスマホの「無機質」という欠点を補うのが、愛着を醸成するコミュニケーションロボットなのです。
ロボットというと、何か作業をするものだと思うかもしれません。しかし掃除をするならホウキを持つ腕よりも回転ブラシ、移動するなら二本足よりも車輪でよいのです。コミュニケーションロボットの腕は身ぶり手ぶりのため、足はノコノコ歩くことによる生命感向上のためにあるのです。するとわれわれは機械であるロボットに対しても、自然に話し掛けてしまう。会話を通じて得たユーザーの情報を活用し、その人に合わせた情報やサービスを返すことができる。そうやって信頼関係を築きながら、日々の体験を共有していくのです。
物理的な作業ばかりがロボットの役割ではありません。より人の感情に訴えかける情報端末として、スマホの未来がロボットなのだと考えています。やがて「去年のお正月は野沢温泉にスキーに行ったね。今年はマイルが貯まっているからニセコに行ってみない?」なんてロボットの提案を受けて、ロボットに旅行手配をしてもらい、もちろんロボットを連れて旅行に行く日が来るかもしれませんね。
◉たかはし・ともたか
1975年、京都市生まれ。2003年京都大工学部卒。代表作にロボット電話「ロボホン」、グランドキャニオン登頂「エボルタ」など。ロボカップ世界大会5年連続優勝。ポピュラーサイエンス誌「未来を変える33人」に選定。四つのギネス世界記録を保持。ロボ・ガレージ代表取締役、東京大先端研特任准教授、大阪電気通信大客員教授、ヒューマンアカデミーロボット教室顧問。