賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

未来へ受け継ぐ
〜次世代のメッセージ〜

inherit to the future

- 2019元日 文化人メッセージ -

高谷史郎

地球は「ゴルディロックス・ゾーン」
未来は私たちの行動にかかっている

高谷史郎
メディアアーティスト

以前、大徳寺の真珠庵を訪ねる機会を得たとき、ちょうど一同が室内に座した途端、にわかに日が翳り薄暗くなったかと思うと、突然の豪雨となった。真っ暗な小さな茶室の部屋の中で、ご住職と皆で肩を寄せ合い静かに息を潜め、激しい雨が屋根や庭の草木を叩く音や雷鳴に耳を澄ませ意識を集中させていると、室内から外部へと、まるでその小さな空間が、広大な宇宙の彼方まで繋がっているような不思議な感覚になった。暗闇のインティメイトな空間、人工的である建築が、自然へと意識をコネクトさせるトリガーとなる、それは忘れ難い体験であった。
2010年に、大貫妙子さんが坂本龍一さんの曲に歌詞を付けて、「3びきのくま」という楽曲をリリースされたとき、ミュージックビデオを制作させてもらうことになり、大貫さんの「3びきのくま」に込められたその意味を知ることとなった。「3びきのくま」はイギリスの童話で、実はダムタイプの1999年作のパフォーマンスでも引用しているのだが、その童話は、ゴルディロックスという女の子が留守中のクマの家に入り込み、テーブルにあった三つのスープのうち、熱過ぎず冷た過ぎない「ちょうどいい」スープを飲んで、三つのうち「ちょうどいい」椅子に座って壊してしまい、「ちょうどいい」ベッドに寝てしまったところ、帰ってきたクマに見つかって慌てて逃げる、というお話だ。そこから転じて、「ちょうどいい場所」という例えに「ゴルディロックス・ゾーン」という言葉が使われるようになり、宇宙で生命の生存に適した宙域を例えるときにも使われることがあるらしい。つまり地球は、この宇宙の中で貴重なかけがえのない「ゴルディロックス・ゾーン」ということだ。
大徳寺を訪ねたのと同じ頃、イギリスのケープフェアウェルが運営する、気候変動について考えるための北極圏遠征プロジェクトに参加して、グリーンランドを船で旅した。数週間に渡る一面氷と岩のモノクロームの世界からアイスランドへ帰ってきたとき、真っ先に陸地の緑が強烈に目に飛び込んできたことを思い出す。
この広大な宇宙の中の地球の、われわれ生物にとって「ちょうどいい」環境を、その欲望のまま競って利用し破壊してきた。地球にとって環境汚染や放射能など大した問題ではなくて、実は人類の存在こそが地球にとって一番の問題だと言ったのはラブロックだったか。人類なんて存在しない方が地球のためにはよい、というのは極論だとしても、未来の人類の生存可能性は現在の私たちの行動にかかっている。

◉たかたに・しろう
1963年、奈良県生まれ。京都市立芸術大環境デザイン専攻卒。84年からアーティストグループ「ダムタイプ」の活動に参加。さまざまなメディアを用いたパフォーマンスやインスタレーション作品の制作に携わり、世界各地の劇場や美術館での公演・展示多数。2019年は東京都現代美術館で、20年にはロームシアター京都でダムタイプの展覧会や新作プロジェクトを計画中。