賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

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〜次世代のメッセージ〜

inherit to the future

- 2019元日 文化人メッセージ -

コシノジュンコ

常に自分の信念を持つこと
そして直球勝負

コシノジュンコ
ファッションデザイナー

2012年より、「琳派400年記念祭」呼び掛け人として、河野元昭氏、高階秀爾氏、辻惟雄氏、芳賀徹氏と共に活動してきた。
琳派は江戸初期から自然と日本人の生活に根づいている流派で、現代のマンガやアニメに至るまで、そのユーモアや美的感覚、独特のカワイさが引き継がれている。琳派初期の代表格とされる俵屋宗達・本阿弥光悦の『鶴図下絵和歌巻』は、 鶴の大群が翔ぶ宗達の絵を背景に光悦の和歌が連なる大作。この遊び心あるコラボレーションはまさに琳派を象徴するもので、私はかねてより感銘を受けていた。
この感性を発信したい。その思いで、2015年に「能×モード」をテーマに、京都国立博物館でファッションショーを行った。デジタル音は一切使わず、静謐な空間に能のお囃子の生演奏。すり足で歩くモデルたち。花札のモチーフをあしらった西陣織のドレスや、和歌巻をイメージした鶴の羽織で表現した。その後「京都・パリ友情盟約締結60周年」の際、約700年もの歴史を誇るパリ市庁舎で同じショーを催し、2都市の文化と琳派の片鱗を伝えることができたかと思う。
伝統を維持しつつ、新たな形でその魅力を訴えるのは簡単なことではない。文化も感覚も違う対象にならなおさらだ。今や日本発のものは世界中から注目され、受け入れられやすい傾向にあるが、同時に海外の文化も簡単に入ってくる。日本全国、土地それぞれの個性が薄れつつある現状を前に、伝統文化継承はますます困難になるだろう。
知識はいたるところにあり、多くは疑われることなく拡散され、瞬く間に共感を生む。日本人は古くから「恥」を重んじてきたが、自らの頭で考えることなく情報に流される人がなんと多いことか。借り物の言葉や行動ではなく、常に自分の信念を持つこと、そして直球勝負。これがいつの時代も人の心に響く普遍的なルールのような気がする。
私はこれまでファッションを通し、国境を意識せず、日本が外国に誇れるものを模索し、挑み、発信してきたつもりだ。これからもそれが責務だと勝手ながら思っている。
「日本の外側を見て、日本の内側を知る。その逆も然り」
100年ごとに芸術家に見直され、不思議な進化を遂げてきた琳派のように、あらゆるジャンルで伝統を再構築する人が増えれば、それは次の世代につながる。そうなれば、粋にあふれた日本が再来するかもしれない。
東京五輪、大阪万博という好機が訪れた今、ますます面白くなりそうだ。

◉コシノジュンコ
大阪府岸和田市生まれ。文化服装学院在学中、新人デザイナーの登龍門といわれる装苑賞を最年少の19歳で受賞。78年のパリコレクションを皮切りに北京、NY、ポーランドなど世界各地で活躍。17年、文化功労者。京都美術工芸大客員教授。2025年国際博覧会誘致特使。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会文化・教育委員も務める。