未来へ受け継ぐ
〜次世代のメッセージ〜
inherit to the future
- 2019元日 文化人メッセージ -
最先端技術でも読み取ること
生み出すことのできないこと
黒田正玄
竹細工・柄杓師
友達が出てくれることを祈りながら電話したり、電話口に友達の家族が出てこられて、思わず姿勢を直したりしたことはないだろうか。友達とすぐに繋がることができる、携帯電話の普及した現在ではこのような経験をすることはないだろう。
歯科医院を開業するご主人の仕事を手伝っている友人が、採用したアルバイトの子が電話を取ることができないので一から教えなければならない、という話を聞いた時には驚いた。確かに現在、家庭で固定電話を受ける機会は減っているだろう。わが家は家と職場が一緒ということもあって、公私にかかわらずよく電話がかかってくる。なので、私たち姉妹は小さい頃から「はい、黒田でございます。どなたさまでしょうか?」と教えられ、電話に出ていた。もちろんその頃は、先方の名前をちんぷんかんぷんに聞くこともあったが、そのおかげで、私は新入社員時代、第一関門である電話の受け答えは難なくクリアーできた。しかし、自分の娘はどうだろうか?娘が中学生だった時分は、お稽古の先生などには、自身から連絡を取らせるようにして、慣れさせるようにしたものだ。
友達が出てくれることを祈りながらかけた電話。しかし、家族の方が先に出てこられることの方が多かった。最初は友達を呼び出してもらうことで精いっぱいだったが、そのうちに余裕が出てきて、電話口で家族の友達の呼び名や、家族同士とても声が似ていることに感心したり、いつしか雑談もできるようになっていった。普段接するなかでは気付かなかった友達の別の一面を発見でき、秘密を共有できたようで、いっそう友達を身近に感じるようになったものだ。
わが家は、竹を用いて、柄杓、花入れ、茶器、香合などの茶道具を作ってきた。代々伝わってきた一定の制作工程や約束事はあるが、材料の竹がみせる景色はすべて違い、一つとして同じものはない。それは、昔、電話口で感じた、文字にしたり口にするのは難しい「人間が醸し出す」雰囲気や空気感にも似ているように思う。人とモノとの会話である茶道具の制作も、人と人とのコミュニケーションも、それぞれがその時々で唯一の事象なのだ。
◉くろだ・しょうげん
1967年、京都生まれ。同志社女子大学芸学部英文学科卒。生家の黒田家は400年以上続く竹細工の家として、千家十職の竹細工・柄杓師を務める。卒業後は航空貨物会社勤務を経て家業に従事し、2006年より千家に出仕。14年に「14代黒田正玄」を襲名。15年〜16年、「襲名記念 十四代 黒田正玄展」を全国6カ所で開催。