賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

未来へ受け継ぐ
〜次世代のメッセージ〜

inherit to the future

- 2019元日 文化人メッセージ -

川村妙慶

「報恩感謝」
「生」に驚き、感動して生きていく

川村妙慶
僧侶

師を囲んでの法話会でのこと。ある聴講者が「先生!ボケるのが怖いです」とおっしゃったのです。すると師は「あなたは忘れっぽくなっていることを心配しているのだね。それはボケと違う。本当のボケは、感動がなくなり、報恩感謝ができなくなった人のことや」とおっしゃったのです。つまり、知識、記憶がなくなることが問題なのではない。どんなことにも感動し、今まで生きてきた中で、お世話になったことへの恩を忘れてはならないということを師匠は教えてくれたのです。
さて、「忘(わすれる)」とは、辞典には「亡」と「心」の合字、心を失う意、覚えていない、記憶がなくなる、心に掛けないとあります。つまり、「忘れない」とは、忘れていってしまうことを、しっかりと印象として記憶し、それを心に掛けるという意味なのです。
国木田独歩の『牛肉と馬鈴薯』の一文が印象的です。時代は明治。7人の男が集まって、酒を飲みながら話をしています。ある男が「僕には不思議な願い」があると言います。「願い? それは何だ」という皆の問い掛けに、男は「びっくりしたいというのが僕の願いなんです。その願いが満たされなかったら、どれだけの富、地位に登ろうとも僕は満足できない。その願いは『宇宙の不思議を知りたいという願いではない、不思議なる宇宙を驚きたいという願いです!』」と言うのです。
今では科学の進化で、あらゆるものが分かるようになりました。昔は、月をみればあそこに兎が餅をついていると想像していました。しかし、今は月まで行ける時代です。そこに何があるのか想像するよりも、知ることができる時代になったのです。つまり、全て答えを持ってしまったのです。答えを持ってしまうと感動は続きません。
私たちは年齢を重ねるごとに、日々同じことを繰り返しの中で、物事に慣れて、当たり前となってきます。若い頃は反発していたのが、「人生なんてこんなもの」と諦め主義になってしまうのです。本当にそうでしょうか?

聞法能不忘 『仏説無量寿経』釈尊
教えの言葉が、私の生活の心のよりどころとなって響いたとき、その言葉は、身と心に留まって忘れることはない、という意味です。辛いこと、嬉しいことがあっての人生です。この私が今生きていることに驚き、目に見えないご縁によって導かれたことに感動して生きていきましょう。「報恩感謝」。新年の幕開けとともにいただきたいですね。

◉かわむら・みょうけい
1964年、北九州市生まれ。アナウンサーとして活躍後、僧侶に。99年、ホームページ「妙慶の日替わり法話」を開設し、心の問題に取り組む。京都新聞に「暖流」を連載、KBSラジオ「川村妙慶の心が笑顔になるラジオ」放送中。NHK・中日文化センター講師。『心の荷物をおろす108の智恵』『あなたは、かけがえのない存在なのだから。』『泥の中から咲く』など著書多数。