賛同企業代表者 文化人 対談シリーズ
経済面コラム 未来を思い描く

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〜次世代のメッセージ〜

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- 2019元日 文化人メッセージ -

桂米團治

正月に梅、雛祭りに桃、七夕には星空
旧暦を世界の常識にしよう

桂米團治
落語家

落語における正月の描写はおよそ次の通り。
「一夜、明けますと、あらたまの春。よそいきを着て年始詣りに行く人で賑わいます。あちこちで凧がうなってる。追い羽根、手まり、弾き初めの音。梅の香りが漂うて、なんとも言えん陽気なこと」
少し前までは当たり前だった光景が、今や完全に消滅。凧上げも羽根つきも見んようになりました。何より、梅が咲いていません。
日本人の忘れもの―。それは旧暦の感覚ではないでしょうか。太古の昔からわが国は大陸伝来の太陰太陽暦で四季の風情を感じてきました。1年の長さは今と同じ「地球の公転周期」ですが、ひとつきの長さを文字通り「月が満ちて欠けるまで」と定めたのです。その日数は29・5。すなわち、29日(小の月)か30日(大の月)のどちらかになります。いつも朔日が新月で、15日が満月となり、十五夜の意味もはっきりします。
ただし、1カ月の日数が少ないので、1年経った時、地球の公転周期に10日ほど足りなくなり、3年で30日も短縮してしまいます。そこで、3年に1度の割合で閏月を設けて、元に戻すことにした次第。どうです?まことに合理的な方法だと思いませんか。年始は立春に程近い新月の日と決められているので、旧正月は春のきざしを充分味わうことができたというわけ。
時代は下り、明治維新―。「西洋化」の名の下に太陽暦(西暦)が採用されました。ご承知の通り、西暦はクリスマス(イエスの誕生日)の8日後の割礼(ユダヤ教の儀式)の日を年始と定めているので、暦が1カ月ほど早まったのです。ところが、四季折々の歳時を旧暦の日付のまま行うようになったので、季節と歳時がずれてしまいました。すなわち3月3日に桃は咲かず、七夕は梅雨の真っただ中という無惨な現象が起き、今に至っているのです。(昔と同じ時期に行っているのは唯一、祇園祭だけ!)
私は旧暦が世界基準になればなぁとかなり本気で考えています。もし、私が国際会議に出席する機会を得たならば、何をさておいても「旧暦の復活」を提言します。正月に梅が香り、雛祭りに桃が咲き、七夕には満天の星が輝くという旧暦は、日本人の生活に欠かせぬ宝物だと思います。
さあ、皆さん!旧暦を世界の常識にしようではありませんか。俳句ブームの今こそチャンス!

◉かつら・よねだんじ
1958年、大阪市生まれ。関西学院大文学部卒。78年、父・桂米朝の内弟子になり、同年、京都金比羅会館にて初舞台。2008年に5代目・桂米團治を襲名。米朝事務所代表取締役社長。上方落語協会会員。ミュージカルやクラシック音楽にも造詣が深く、音楽番組、NHKドイツ語会話、俳優など幅広い分野で活躍中。