未来へ受け継ぐ
〜次世代のメッセージ〜
inherit to the future
- 2019元日 文化人メッセージ -
日本の風土が持っている
豊かな生命の力に感謝
今井政之
陶芸家
紅葉が映える晴天の時、昨年11月3日、皇居・宮殿松の間において、親授式が厳粛に執り行われた。天皇陛下より文化勲章を拝受し、身の引き締まる感激で名誉は一瞬であった。平成最期の受t章であり感慨無量の思いであった。 振り返れば、陶芸の道に入り70余年、1200年の歴史ある京都の芸術、文化に浸りながらただひたすら土との葛藤を続けてきた。師匠の楠部弥弌先生に出会い、先生が主宰するやきものグループの青陶会の創立会員となり、終戦後外国から導入された前衛芸術の流行の中で、創造への道を学んだ。「作は人なり」、作り出される作品は、その作り手の人格そのものであり、人間修行の賜物であると師匠から厳しく教えられた。
陶芸分野は作る人とその素材との関わりが深い。それぞれの土の特性をよく理解し表現した造形、土の持っている特性に立脚した技術、創造する生命感が必要となるのである。試行錯誤の中で作陶の内面的な感性を考え、ようやく象嵌という手法を試作するようになった。従来、象嵌という手法は線の象嵌が基調になっていたが、それを面の象嵌に試みたのだ。土は焼成すれば必ず収縮するという宿命があり、その収縮をコントロールすることが不可欠な条件となる。そのため種々の土を対象にして焼成テストを繰り返さなければならない。埋め込む土によって用い方が異なってくる。自然の土から得られない青や黒、黄、赤などの土は化学顔料が必要となり、色土の収縮率を把握するのがいかに困難を来すか、研究を重ねなければならない。造形された胎土に嵌め込むタイミングが重要となる。胎土の乾燥度をよく計算し、軟らかさを保った時点で色土を嵌め込むのである。面積の広い平象嵌であるため、乾燥の際、途中でひび割れを起こすこともあった。面象嵌の完成には試行錯誤の連続が必要であった。
京都五条坂での何百年も続いた登り窯が焼けなくなったため、故郷の瀬戸内に面した風光明媚な竹原に登り窯・穴窯を築き、赤松の薪を使い焼成することにより、ガス窯や電気窯では得られない窯変技法による創作活動を始めた。
近年は南海の石垣島に出掛け、珊瑚礁に泳ぐ熱帯魚たちと戯れ、デッサンし、面象嵌の技法を生かして変幻自在な作品を生み出している。大自然の生き物たちと対話し、日本の風土が持っている豊かな豊かな生命の力に感謝し、新しき年を過ごしたいと願っている。
◉いまい・まさゆき
1930年、大阪市生まれ。岡山県備前市で備前焼の修業を開始。その後京都で楠部彌弌に師事し、面象嵌、苔泥彩など独自の技法を生み出す。新日展特選・北斗賞、京都府文化功労者、日本芸術院賞など数々の賞を受賞。2011年文化功労者。18年文化勲章受章。日本芸術院会員。日展名誉顧問や京都工芸美術作家協会顧問、京都美術工芸大客員教授などを務める。