日本人の忘れもの 京都、こころここに

おきざりにしてしまったものがある。いま、日本が、世界が気づきはじめた。『こころ ここに』京都が育んだ文化という「ものさし」が時代に左右されない豊かさを示す。

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京都発「日本人の忘れもの」キャンペーンプロジェクト

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第15回10月9日掲載
あきらめない心
「海外」を取り込み融合させて
独自文化を創造する精神脈々

もりた・りえこ

日本画家
森田 りえ子 さん

神戸市生まれ。1980年、京都市立芸大日本画専攻科修了。2000年、京都市芸術新人賞受賞。11年、京都府文化賞功労賞受賞。金閣寺本堂杉戸絵・客殿天井画、真澄寺別院流響院襖絵など制作。海外含め個展開催多数。京都市北区在住。

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「イカした生活」にあこがれて…
バブルは崩壊した

 先般、BSテレビで映画化された石原慎太郎原作の「狂った果実」を観ました。太陽族と呼ばれる上流階級の青年たちは夜はダンスホールでフレアスカートにピンヒールの女子とジルバに興じ、昼はアメリカ製のオープンカーで湘南海岸に出かけ水上スキーに明け暮れる…。石原裕次郎主演ヒット作のストーリーはさておき、アメリカのドラマさながらのゴージャスなセットに目を奪われました。戦後の「あれから10年」と呼ばれた一九五六年上映のこの映画を観た当時の日本人のほとんどは、こんな「イカした生活」に憧れ、欧米の近代化された生活を手に入れるべく懸命に働き、やがて高度経済成長、バブル経済、そして崩壊へと時代は変化してゆきました。

 西洋に追いつき追いこせのそんな時代に私は生まれました。高校までの美術教育もまた近代西洋美術一色でした。美術大学受験のために、古代ギリシア彫刻のレプリカ石膏像を木炭や鉛筆でデッサンし、光と影でメリハリのある彫像の立体感が表現できるかを追求していました。それが絵画の基礎力という考え方でした。ところが、京都市立芸術大に入学、日本画を専攻するや、モチーフに花を渡され、陰影をつけず植物の色相(いろあい)と線描で表現しなさいとの指示を受け、戸惑いの連続でした。それまでに培われた西洋画的な物の見方、捉え方を否定する? そう易々とは切りかえられない…。上村松園先生や伊東深水先生のような端正な線で縁取られた静かな日本画の描き方は自分の作品イメージとはほど遠い世界でした。葛藤と混迷のうちに二十代が過ぎゆきました。

京でたどりついた新しいタイプの日本画

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 それから程なく、京都にアトリエを構え、本格的に画家としての活動をスタートさせました。四季の移ろいを肌で感じる日常。鴨川の川辺を散歩しながら水のせせらぎに耳を傾けるとき…ふと迷い込んだ路地の町家の軒先にさりげなく生けられた花に出合うとき…緊張感が次第に解けて素直な心持ちになってゆく自分を感じました。また先人たちが残した貴重な文化遺産に出会いに行くと、同じ高さの目線で、大切なことを語りかけてくれました。京都は街全体が画家にとって、多くの知慧(ちえ)とインスピレーションを与えてくれる博物館なのです。

 この街に暮らすうちに、もつれた糸が少しずつほぐれるように、自然な形で私の絵に変化が起こりはじめました。日本画の岩絵具特有の透明感や鮮やかな色彩を活かすために、今に受け継がれる伝統的技法で描きながらも陰影も取り入れ、ボリューム感を出すという表現--東西融合型の新しいタイプの日本画にたどりついたのです。

民族DNAに誇り持ち再び活力を

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 日本人は伝統を守りながらも固執することなく海外の文化や息吹き取り込み、それを咀嚼(そしゃく)し融合させて独自の日本文化を創造してきました。なんて柔軟かつ融通性に富んだ民族なんでしょう。加えて、あくなき探求心、向上心そして勤勉な精神、「あきらめない心」は日本人の遺伝子DNAの中で、いにしえより受け継がれ、脈々と流れ続けているように思えてなりません。

 ネガティブな世相に押し潰されそうな今こそ、日本人の民族DNAに誇りを持ち、「融合の文化」を武器に、再び活力を呼び覚ます時だと思います。

<日本の暦>

寒露(10月9日)

 「寒露(かんろ)」は秋分から数えて15日目ごろの節気です。初秋から仲秋にかけて野草に夜露が宿り、その露が冷たい空気と接し、木々たちは紅葉の準備にさしかかる季節です。五穀百果は実り、収穫もたけなわで、いよいよ秋本番。各地の神社では収穫を祝う秋祭も行われます。1年を72の季節に分けた暦「七十二候」では「雁来る」と呼ぶ候にあたります。北の国から冬鳥の雁が渡ってくる季節になったことを知らされます。

<リレーメッセージ>

小説家・松村 栄子さん

■町内会

 これを言うと友人はみな笑うのだが、今年わたしは町内会の<体育振興委員>なのだ。生来怠け者で運動音痴なのにおこがましいことである。

 それでも引き受けてみたのは、住んでいる町のことを知らなすぎると思ったからだ。そもそも自分の属している町内会の名称からしてよくわかっていなかった。役員会に参加して初めて知ったというていたらく。

 体育振興委員は町内で<体振さん>と呼ばれている。一年のメインイベントは区民運動会で、賛助金集めに個別訪問したりするのは、夏の最中、熱中症との闘いでなかなか大変だ。

 けれど、一軒一軒巡っていると面白い発見もある。消防士さんだとばかり思っていた人が商店のご主人だったり、古いお宅に住んでいるのが案外新住人で逆にあれこれ質問されたり。一度お話ししてみたかった方に声をかけるチャンスもできた。

 町内会も運動会も、なくそうと思えばなくせそうなものだけれど、こんなふうにうっすらとでも近隣の人や家を気にしている関係というのも優しくていいなと感じている。前よりもさらに自分の町が好きになっているこのごろだ。


(次回のリレーメッセージは、書家の木積凜穂さんです)

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