日本人の忘れもの 京都、こころここに

おきざりにしてしまったものがある。いま、日本が、世界が気づきはじめた。『こころ ここに』京都が育んだ文化という「ものさし」が時代に左右されない豊かさを示す。

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第43回4月29日掲載
一歩退く慎み
利便・効率追求、傲慢になった
今こそ「忘己利他」の精神を…

はんだ・こうじゅん

天台座主
半田 孝淳 さん

1917年、長野県上田市生まれ。大正大卒。天台宗務庁教学部長などを経て99年探題に。世界平和を祈る「比叡山宗教サミット(87年)」開催などに尽力した。曼殊院門主の後、2007年、第256世天台座主を相承。ことし4月からは全日本仏教会会長も務める。

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 東日本大震災からすでに1年がすぎた。なぜあのような大災害に見舞われたのか。被災地に立ってみて、私は自然がわれわれに警告を発したように感じられた。

「前に前に」では
世の中うまくいくはずがない

 日本人はかつてない豊かな社会を実現したが、利便や効率ばかりを追求する中で傲慢(ごうまん)となり、自然への畏敬を忘れてしまった。利便を支えてきた原子力発電所の、あのひどい壊れ方を見ると、だれしも傲慢さを反省しないわけにはいかないだろう。

 今はエベレストに登れば、人はこれを「征服した」と表現する。自然をねじ伏せたと思い込み、自然に生かされている実感や感動がどこかへいってしまった。

 日本の山岳信仰では、行者さんたちは今も六根清浄を唱えながら山を登っていく。六根とは眼耳鼻舌身意であり、それらが清くなければ聖なるお山に登ることは許されない。

 傲慢や我欲を断ち、六根清浄を大声で唱えて、ようやく頂上に立つと、感謝と感動が自然に胸にわいてくる。これが本来の山や自然との向き合い方だと思う。

 戦後の自由主義や平等の観念は立派ではあるが、無責任に好き放題を言う悪い面も感じる。親が勝手に自分を生んだとか、体は自分だけのものと考え、奔放に走る人が少なくない。自分の中に世界があるように誤解して、自分が「前に前に」と出てしまう。

 みんなが傲慢になり前に出るばかりでは、世の中はうまくいくはずがない。謙譲と慎み、一歩退く心の動きが起きないのは困ったことだ。世の中は人間どうしの共同生活だから、自分を慎み他人を思いやることが欠かせない。

被災地の若きボランティアが希望の芽に

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 いまこそ忘己利他(もうこりた)、「己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり」と唱えられた伝教大師のご精神が生かされなければならない。

 東日本大震災では、発生と同時に多くの若い人たちがボランティアにかけつけた。「電気も水もない。被災者はどうしているか」と思いやり、居ても立ってもいられないから飛んで行った。まさに利他の精神であり、被災地の大きな力になった。こうした行動は日本の希望の芽であり、大切に育てていきたい。

 法華経に常不軽菩薩(じょうふぎょうぼさつ)の話が出てくる。出会う人すべてに「あなたは仏になる人だ」と言って合掌礼拝する立派な菩薩だった。

「論湿寒貧」に耐え全うする比叡での修行

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 籠山行や回峰行に打ち込んでいる比叡山の僧たちは、常不軽菩薩の行を身をもって実践している立場だ。朝早く起きて山中をめぐりお一人お一人の仏様を拝む。そうすると、最後には道端の石まで拝む気持ちになってくる。

 比叡山の修行は「論湿寒貧(ろんしつかんぴん)」と呼ばれ、清貧に暮らし、暑さ寒さの厳しい環境に耐えながら全うしなければならない。傲慢、我欲を捨て、自然への畏敬なしにはできない行なのだ。

 忘己利他のご精神はそのような道場である比叡山から生まれた。われわれ日本人が、自らこれを行動に移すことで復興を成し遂げ、世界の信頼を再び勝ち取れるように、と心から願っている。

<日本の暦>

八十八夜

 ゴールデンウイークに入り、あさってはもう5月。ことしはうるう年なので、平年なら5月2日の「八十八夜」は1日に早まりました。

 立春から数えて88日目にあたるこの日は、昔から「八十八夜の別れ霜」という言葉があるように、遅霜(おそじも)の危険が残る最後の時期とされます。茶摘み作業をする農家にとって油断を戒める日でもあります。

 日本の旧暦は農事暦の性格が強くお百姓さんたちの体得した農業の知恵が詰まっています。八十八夜はその代表格。江戸時代から暦に載るようになりました。

 明治になって「夏も近づく八十八夜…」と小学唱歌にも歌われるようになり、すっかり定着しました。

<リレーメッセージ>

学校法人大和学園名誉学園長 田中田鶴子さん

■子育て四カ条

(一)あいさつは明るく笑顔で

(二)返事は大きくはっきりと

(三)人の嫌がることはしない

(四)神仏(ご先祖)を大切に

 これは、私の子育て四カ条です。と申しましても、私が子育てをしていたのは半世紀以上前のことですから、時代がかったことと笑われるかもしれませんね。

 近ごろは、ウェブや多機能携帯端末によって、時や場所を選ばずコミュニケーションが可能で、便利な時代になりました。半面、胸襟を開いて、言葉やしぐさで礼節を交わす温もりのあるあいさつが忘れられているようで、寂しい気がいたします。

 学園では、古くからあらゆる年齢層に好印象をもって受け入れられる身だしなみ、立ち居振る舞い、あいさつなど、礼儀や規範教育に力を注いできました。人心の荒廃が危惧(きぐ)される現代社会だからこそ、専門知識や技能とともに、正しい態度、姿勢など横断的能力の醸成が大切と感じます。

 ホスピタリティー精神と人間的な魅力を兼ね備えた人の存在が社会を豊かに明るくします。気持ちのこもった「あいさつ」こそが、おもてなしの原点ではないでしょうか。昔は子育て四カ条でしたが、現代社会には「大人に必要な四カ条」と言えるかも知れません。


(次回のリレーメッセージは、京都女性スポーツの会会長の水野加余子さんです)

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