日本人の忘れもの 京都、こころここに

おきざりにしてしまったものがある。いま、日本が、世界が気づきはじめた。『こころ ここに』京都が育んだ文化という「ものさし」が時代に左右されない豊かさを示す。

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第39回4月1日掲載
移ろいを秘める
とりどりの色の照葉の魅力…
多様性こそ人間の厚みを育む

ささおか・りゅうほ

華道「未生流笹岡」家元
笹岡 隆甫 さん

1974年京都生まれ。京都大工学部建築学科卒。3歳から祖父の二代家元笹岡勲甫の指導を受け、2011年に三代家元継承。舞台芸術としてのいけばなの可能性を追求し各種メディアで活躍。京都いけばな協会理事。近著に『いけばな』(新潮新書)。

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 椿(つばき)。桜や牡丹(ぼたん)と並んで、春の花の代表格である。種類も豊富で、凛(りん)とした白玉椿、優しい桃色の乙女椿など、それぞれに味わいがあるが、いけばなで最も重宝するのは照葉椿【てりはつばき】ではないだろうか。

日本人の詩情をそそる「移ろい」

 この照葉という言葉、聞き慣れない方も多いだろう。照葉樹林のように、照葉をショウヨウと読む場合は、光沢がある緑の葉を指すが、同じ字をテリハと読めば、緑一色ではなく、赤・黄・茶などと様々(さまざま)な色に変化した葉を指す。一本の枝が実に様々な色目の葉で構成され、さらに一枚にさえグラデーションが見つかる。だから、照葉椿は、花ではなく、葉を愛(め)でる。花はあってもなくてもよい。

 照葉椿は玄人好みの花材だ。緑一色のほうが勢いがあって好きだという人もいるだろう。それでも、我々(われわれ)はあえて照葉椿をいける。照葉の魅力はとりどりの色彩を内に秘めた多様性である。おもしろいのは、日本人がその多様性の中に「移ろい」、つまり時間経過を見出(みいだ)すことだ。

 移ろいは日本人の詩情をそそる。我々は綻(ほころ)んだ桜の蕾(つぼみ)を見つけて期待に胸をふくらませ、満開の夜桜の下を友と肩を組んで闊歩(かっぽ)し、桜吹雪に人生の儚(はかな)さを思い、そしてまた葉桜の生命力に勇気付けられる。空の移り変わりを鋭く捉え、朝の表現一つにしても、「あかつき」「しののめ」「あけぼの」「つとめて」などと、数々の美しい日本語を生み出した。日本人ほど移ろいに敏感な民族を、私はほかに知らない。

年齢や嗜好の異なる人間が支え合う社会

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 照葉は色が変わりゆく過程のある瞬間を切り取ったものだが、我々は照葉を見るとき、各々の頭の中で移ろいを思い浮かべる。もとは緑一色であった葉が、時間経過とともに、さまざまな色に染まっていく……。日本人は、照葉の中に植物の命の移ろいを見出すからこそ、愛したのだろう。

 様々な人間によって構成される我々の社会は、照葉に似ている気がする。年齢や嗜好(しこう)の異なる人間同士が寄り添い、互いに支えあって成り立っている。いけばな教室はさながら、その縮図だ。幼い頃より祖父の稽古場に出入りしていた私を、流派の高弟の先生方は、子や孫のようにかわいがってくれ、折にふれ、いろんな話を聞かせてくれた。

 シベリア抑留中、同朋がパンを奪い合う過酷な現実の中で、ただ黙々と花をいけていた友の姿に感銘を受け、帰国後いけばなの道を志した先生。役目を終えた花材を処分するときは、半紙に包んで酒で供養し涙を流す先生。それぞれの先生の花への想(おも)いから、私は花との向き合い方を教わった。

両親とは異なる価値観を示した祖父母の教え

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 かつては、3世代、4世代が同じ屋根の下で暮らし、孫のしつけは忙しい親に代わって祖父母が担っていた。祖父母は、両親とはまた異なる価値観を示し、孫に人生の指針を与えてくれる貴重な存在だ。両親の言うことには反抗したくなるが、祖父母やその世代の教授者の話は、どこか懐かしく、なぜか素直に聞けた。

 広い世代の話を聞くことで、視野が広がり、人間としての厚みが増す。それは、自分の中に、移ろいを秘めるということなのかもしれない。

<日本の暦>

桜前線

 新しい年度を迎え、職場や学校にフレッシュな顔が、あふれていることでしょう。旧暦では、4月1日は宮中などで「衣替え(更衣)の日」とされていました。4月はまさに人心一新の季節です。

 この時期、季節を彩り、人々の気分を一新してくれるのが桜です。ソメイヨシノの開花日を示す桜前線も順調に北上。京都では1日前後に開花、6日から13日ごろが見ごろと予測されています。

 今冬はことのほか寒く、見ごろ予測はもっと後へずれる気もします。一時的に天候が冬型に戻る「花冷え」の日が多いほど、花の命は長引くとか。寒かった分、ことしは思う存分、桜を楽しみましょう。

<リレーメッセージ>

ミセスリビング代表取締役 田中 峰子さん

■「住育」を京都から発信したい!!

 「住育」については、その言葉を知る人も少ないでしょう。しかし、東日本大震災を体験した今、「家族の絆」の大切さが見直されています。

 日本社会の伝統でもある「家族の絆」を取り戻すために、歴史ある文化の中心である京都から「住育」を発信したい、と頑張っています。

 私は、結婚を機に、小学校の教師を辞して建築の世界に入り、家の間取りが母親や家族のストレスになっていることに気づきました。家事・子育て・介護まで、日々の生活を楽しんでほしい! と、主婦目線で家づくりにチャレンジし、40年目になる昨年、「幸せが舞い降りる『住育の家』」を京都から出版しました。

 ふたりの娘と一緒に提案、設計する「住育の家」によって、各地に「幸せ家族」が次々と生まれています。その様子は、心理学や幼児教育の大学教授が関心を寄せて実態をつぶさに調査、今秋に京都で開かれる学会で発表されることになっています。

 「住育こそ日本再生の突破口」という激励を受け、この京都の風として全国に吹かせたい! 次世代の子供たちのために京都から「住育」を発信していきたい! と願っています。


(次回のリレーメッセージは、服部和子きもの学院院長の服部和子さんです)

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