日本人の忘れもの 京都、こころここに

おきざりにしてしまったものがある。いま、日本が、世界が気づきはじめた。『こころ ここに』京都が育んだ文化という「ものさし」が時代に左右されない豊かさを示す。

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京都発「日本人の忘れもの」キャンペーンプロジェクト

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第37回3月18日掲載
信念に誠実に生きる
主流に遠慮せず客観合理的に
自己利害超え主張する勇気を

なかじま・さだお

京都大物質-細胞統合システム拠点長
中辻 憲夫 さん

1950年和歌山県橋本市生まれ。京都大理学部卒。同大学院博士課程修了。国立遺伝学研究所教授、京大再生医科学研究所教授・所長などをへて2007年から現職。国内で初めてヒトES細胞株の樹立に成功。

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インテグリティ
欠如は欧米では
最大の非難に

 京都大物質-細胞統合システム拠点=iCeMS=は、文部科学省の「世界トップレベル研究拠点」の一つとして2007年に設置された。ES(胚(はい)性幹)細胞やiPS(人工多能性幹)細胞などの細胞科学と、メゾ(1ナノメートル~1マイクロメートル)領域の物質科学を統合し、新たな学際領域を作り出すことが大きな研究目標だ。数多くの研究論文を既に、著名な科学誌に発表している。

 これまで日本に無かった新しい研究組織を実験的に作り出すことも、iCeMS(アイセムス)の役割だと思っている。科学に関するコミュニケーション能力の研究を進める「科学コミュニケーショングループ」を設けたこともその狙いだ。さらに、周辺事業として09年から「インテグリティセミナー」を開催している。

 インテグリティは、辞書では「高潔」「誠実」などと訳されている。人におもねることなく自ら考え、バランス良く判断し、信念に誠実に行動することのようだ。欧米の政治家や専門家にとって、「インテグリティが無い」というのは、このうえない非難の言葉になるという。

 09年のインテグリティセミナーは、公開講演会の形にした。講師には科学哲学者の村上陽一郎東京大名誉教授や、アホウドリ復活にたった一人で取り組んだ長谷川博東邦大教授たちを招き、研究者や一般の人たちと科学者の役割を話し合った。

日の丸背景の黒塗りの操作手順書

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 翌10年は京大の大学院生を対象にした「研究科横断授業」として企画した。その冒頭で私は、「科学者の生き方と責任」のテーマで講義し、科学者には、さまざまな問題について客観的合理的に考え、勇気をもって発言する役割と責任があることを指摘した。主流意見に遠慮して沈黙することで、誤った意見や方針の再検討が先送りされれば、本来避けられるはずの被害が甚大になるからだ。

 そのことは端なくも、昨年3月に起きた東京電力福島第1原発の事故で露わになった。昨年暮れ、英国の科学誌「ネイチャー」がこの事故を取り上げている。表紙には、東電が国会に提出した黒塗りの「操作手順書」が、日の丸をバックに紹介された。日本の科学者として恥ずかしい思いだった。

空気を読み自己規制する集団行動パターン

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 原発への懸念は早くからあった。例えば、湯川秀樹博士たちとともに素粒子論を開拓した研究者、坂田昌一博士は戦後、原子炉安全審査委員を務めたが、国・原子力委員会の方針を批判して辞任した。坂田博士は半世紀も前に、原子炉の安全審査機構が原発推進側から独立していないことの不備を指摘している。が、その提言はうまく生かされなかった。

 東日本大震災で日本人は、お互いを思いやりながら一丸となって行動し、世界の称賛を受けた。しかしその美質は時として、空気を読んで自己規制する集団行動パターンにつながる。激動が続く現代日本では、自らの信念に誠実に、主張すべきことは自己の利害を超えて主張する勇気も求められている。

<日本の暦>

社日(しゃにち)

 きょう18日(旧暦2月26日)は春の「社日」。産土神(うぶすながみ)(土地の守り神)を祀(まつ)る日で、地方によっては、この日に農耕の仕事を休むところもあるようです。

 社日は、彼岸や土用など九つある雑節の一つです。春秋の2回あり、春分と秋分に最も近い「戊(つちのえ)」の日が選ばれます。

 「社」は産土神を指し、昔は春の社日に神前に五穀の種を供え豊作を祈る儀式が広く行われました。

 島根県出雲地方のように、集落ごとに五角形の石塔を建て、今も「社日さん」としてあがめる社日信仰の盛んなところもあります。春の社日にお酒を飲むと、耳がよくなるという言い伝えもあるそうです。

<リレーメッセージ>

長楽館館主 土手 素子さん

■「ほんまもん」の文化

 「京都人は怖い」といわれます。例えば、役者さんたちは口を揃(そろ)えて、「京都のお客様は怖い」といわれます。それはきっと京都人の「ほんまもん」を見分ける目を意識してのことではないでしょうか。

 京に都が出来て1200年余り。以来貴族が職人を育て、職人が民衆の見る目を育む。反対に、目の肥えた民衆が職人を育て、職人が貴族にその腕を発揮する。この切磋琢磨(せっさたくま)の構図は、衣・食・住をはじめ、芸術・技術ほかあらゆる分野に及び、その繰り返しが京都人の審美眼を育て、いつの間にか京都の街そのものに本物志向の文化が根付いたのではと思います。旅行者に京都が喜ばれるのは、そこに「ほんまもん」から滲(にじ)み出る何かを感じるからでしょうか。

 何かのキャッチコピーに「日本に京都があって良かった」というのがありました。日本人の多くが忘れかけている「ほんまもん」が京都にはまだ多く残っているからでしょう。

 この言葉をずっと言い続けて頂けますよう、私達も切磋琢磨し、先人が残してくれた「ほんまもん」の文化をただ残すだけでなく、より大きく育ててゆかなければと思います。


(次回のリレーメッセージは、西陣暮らしの美術館「冨田屋」代表の田中峰子さんです)

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