日本人の忘れもの 京都、こころここに

おきざりにしてしまったものがある。いま、日本が、世界が気づきはじめた。『こころ ここに』京都が育んだ文化という「ものさし」が時代に左右されない豊かさを示す。

日本人の忘れもの 公式Facebook

リレーメッセージアーカイブ

日本人の忘れもの記念フォーラムin東京

日本人の忘れもの記念フォーラムin京都

バックナンバー

2012年
6月
5月
4月
3月
2月
1月
2011年
12月
11月
10月
9月
8月
7月

京都発「日本人の忘れもの」キャンペーンプロジェクト

  • 文字サイズ
  • 最新記事
  • バックナンバー
  • 取り組みと目的
  • 協賛企業
第32回2月12日掲載
お先にどうぞ
便利な生活が広がる中で
切り落とした心くばりが大切

もりぐち・くにひこ

染色家(人間国宝)森口クニ彦さん

1941年京都市生まれ。京都市美術大(現・京都市芸大)やパリ国立高等装飾美術学校で学んだあと、父の人間国宝・森口華弘氏のもとで友禅修業。芸術性の高い作風で、88年フランス芸術文化勲章シュバリエ章、2001年紫綬褒章。

イメージ01

 今でこそ、友禅の世界も「伝統工芸」と呼ばれます。しかし、百年前に果たして「伝統工芸」という分野はあったのでしょうか。

 友禅に限らないことですが、今、伝統工芸と呼ばれる各分野の人々は、何を守り、何を伝えてきたのか。

守り伝えたのは
技術よりも
ものの考え方

 おそらく、それは、長い年月をかけて作り上げてきた、技術そのものよりも、哲学や思想、ものの考え方ではないでしょうか。技(技術)は、各時代に、よりよいものを生かし改良を重ねていくものです。友禅に即して言えば、過去、多くの先達が求めながら、ついに果たせなかった、新しい何かを生み出す。それが大事であり、決して、古い形の何かを残すことが役割ではないと思います。

 最近、これを痛感しています。昨春、東日本大震災がありました。ちょうど、フランスの映像作家が正月から自宅に滞在中で、カメラを回していたところでした。原発事故発生からすぐ、大使館からの帰国命令で、慌ただしく引き揚げました。僕はと言えば、十数日、呆然(ぼうぜん)としていました。

 「こんなときに、美しい着物作りに専念しているだけでいいのか」

 工芸作家仲間で募金をやり、第二弾も計画しなければ、と考えている今ですが、結局、文化財保護と後継者育成の仕事を続けてきた身だから、これを懸命にやり続けていくことが、震災で亡くなられた被災者への「オマージュ(献辞)」になると考えています。

 もう一つ。放射性物質の「半減期」は、人の一生とは比較にならない長さだそうです。日本の立て直しに、何が求められるのか、考えを巡らすうちにハッとしました。ご先祖さまたちが伝えたかったことは、近代化が進み、便利な生活が広がる中で、人々が切り落とし、忘れ去ったかに見える、心くばりや生活・行動様式ではないか、と。例えば、「お先にどうぞ」ということばを、多くの人がお忘れになっていないだろうか。他人を利する思想、利他主義と言い換えてもいい論調をつい最近、拝見したように思います。

残し持つ心を表すため習字の復活を

イメージ02

 何をなすべきか、具体的な方法として、習字の復活を思い描いています。小学校の授業に、習字をぜひ、取り入れてほしいのです。週に1回、墨をすり、筆を使い、古紙を使って練習し、半紙に清書する。手本に忠実ではなく、気持ちを表す場として…。最後には、すずり箱などをきれいに整える。これを6年間続ければ、日本人がDNAの中にきっと残し持っているであろう伝統文化を大切にする心を蘇(よみがえ)らせられるのではないでしょうか。幸い、今でも、墨や筆の生産体制は整っており、京都から始められれば、こんなうれしいことはありません。

暗闇に向かってはいるが日はまた昇る

イメージ03

 僕は一昨年(2010年)に大病を患い、昨年は大震災。人生の締めくくりを意識しています。今、日本は夕日が沈むように、暗闇に向かっているように見えるかもしれません。しかし、日はまた昇ります。

 「文化で世界の役に立ちたい」と、あの敗戦の廃虚から立ち上がったことを忘れてはいけません。

 長生きした父も友禅作家でしたが、僕も微力ながら、一代では築き上げられないものにチャレンジしたいと思います。

<日本の暦>

聖バレンタインデー

 お菓子メーカーの販売戦略かどうかは別にして、セントバレンタインデーは今や、日本の年中行事に定着しています。

 AD269年(ユリウス暦)2月14日、現在のイタリアでカトリック司祭、ウァレンティヌアスが、ローマ皇帝による宗教弾圧で処刑されます。彼の殉教日が後に、キリスト教の祝祭日となりました。

 西欧の習慣に倣い、日本の女性たちが、広くこの日に好きな男性へチョコレートなどを贈るようになったのは1970年代から。季節も人の心も春めくことからきた慣習です。最近は、「義理」でも「本命」でもなく家族や友人に贈るチョコも増えているようです。

<リレーメッセージ>

千家十職塗師(ぬし)・中村 宗哲さん

■伝える

 京都に生まれ、京の四季を感じ、家の年中行事を楽しみながら暮らしてきた。お正月、節分、雛(ひな)祭り、お盆、お火焚(ひたき)など、大人になってからは準備もそれなりにたいへんだが、毎年当たり前の事である。

 世の中は今、何事も便利になり、面倒な事は敬遠されて年中行事も年々簡略化されている。

 お正月も雑煮椀(わん)や盃(はい)などの塗物(ぬりもの)は扱い方が難しいと、使う人が少なくなってきている。塗物を造る仕事に携わっている私にとって悲しい事である。

 禅院の僧侶や茶人、昔の人達(ひとたち)はお椀で御飯を食べ、食後はお茶や湯、漬物でお椀を清めてきれいにする。食材や料理人への感謝の気持ち、物を大事に使う心を大切にしている。大量の水や洗剤を使わずエコでもある。昔から当たり前にしていた事には利に叶(かな)った事がたくさんある。

 様々な情報があふれ、便利な暮らしに馴(な)れている子供達に、日本、そして京都の良き事を、私達大人が祖父母や親から教わったように、一緒にして見せ、伝えていく事が今を生きる大人の責任のように思う。


(次回のリレーメッセージは、茶道武者小路千家家元夫人の千 和加子さんです)

Get ADOBE READER
PDFファイルをご覧いただくためにはAdobe® Reader®が必要です。
お持ちでない方は、ダウンロードしてからご覧ください。