日本人の忘れもの 第2部

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京都発「日本人の忘れもの」キャンペーン第2部

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第41回 4月7日掲載 対談

向上心
加点主義で、志ある人材の育成を

大柳雅利さん

第一工業製薬株式会社 代表取締役社長
大柳 雅利 さん

おおやなぎ・まさとし 1953年、岡山市生まれ。82年、京都大大学院工学研究科修了後、第一工業製薬に入社。第一工業製薬開発研究本部副部長、技術開発本部長などを経て、2007年代表取締役社長に就任。現場主義や意識改革、チャレンジ精神などを意識した取り組みを積極的に行っている。

若者よ、日本というカプセルから飛び出そう

佐藤敬二さん

佛教大教授
高田 公理 さん

たかだ・まさとし 1944年、京都市生まれ。68年、京都大理学部卒業後、シンクタンク主任研究員などを経験。愛知学泉大教授、武庫川女子大教授を経て、2008年4月から佛教大社会学部教授。主な著書に「にっぽんの知恵」「文明としてのツーリズム:歩く・見る・聞く、そして考える」など。

イメージ その1
戦後日本の高度成長の源泉は、まさに人そのものの向上意欲にあった。昭和46年当時の京都駅の通勤風景。

大柳◉当社は明治42年に、業務用油剤の製造会社として西本願寺前で創業、昭和9年には日本初の合成洗剤「モノゲン」を売り出しました。現在では食品会社に食感改良材を、精密機器製造会社向けに精密部品洗浄剤など、界面技術を基にした工業用薬剤を製造販売しています。

最近はアメリカ型経営が日本にも浸透、ステークホルダー(利害関係者)という言葉を多く目にするようになりました。特に株主利益最優先が企業存続の命題だと言われていますが、当社は「ひとが、原点」。この姿勢を今後とも変える気持ちはまったくありません。その意味で、まずは会社の従業員を大切にすることを常に意識しています。

高田◉近江商人の「売り手よし、買い手よし、世間よし」の三方よし精神に通じるお考えですね。

会社は英語でカンバニー(company)。語源は「共に(com)」と「パン(pain:フランス語)」に由来しています。つまり、カンパニーとは、パンを共に食べようという意味の合成語です。日本では特に、共に働く人たちが報酬を共有する考えから出発した会社が多かったように思うのですが、最近ではアメリカ型の、株主対策として目先の利益だけを求める経営スタイルに染まり、従業員の生活保障と向上、社会貢献がおざなりになっている会社が増えている気がしてなりません。

戦後日本の高度成長の源泉は、まさに人そのものの向上意欲にあったわけですよね。最近の日本経済の停滞は、大企業を中心に人をおざなりにした経営に走りすぎたことが原因でしょう。

大柳◉確かに企業姿勢も変化していますが、働く人たちの心も高度成長時代とは様変わりしています。当社の今年の年間標語は「負けてたまるか!」と定めました。残念ながら今年1月に他界された大横綱だった大鵬関が、土俵際に追い込まれても常に、「負けてたまるか!」と同じ意味の「なにくそ」精神で踏ん張ってきたと言われていました。

競わせないことを中心に置いていた、ゆとり教育の後遺症でしょうか、競争社会にあっても、別に勝たなくてもいい、用意されたレールの上で一つの駒として気楽に働けばいいとの考え方が若い人たちの心底にあるようです。人間関係の摩擦を回避する傾向や、相手を傷つけてはいけないからとの思いから、結婚をためらう若者も増えているようですしね。

高田◉教育面では、学力偏差値中心で子どもたちを評価する傾向も大いに問題です。私の学校時代は、スポーツに優れているとか、歌がうまい、絵を描くのが上手だといった、勉強以外の部分で何かに秀でている児童、生徒を、子どもたちだけでなく先生も高く買っていました。勉強だけという一定方向の価値基準しかない世の中で、どうしても勉強のできない子どもたちは、いくら勉強を頑張っても、どうせ優秀な子には勝てるわけがないからと諦めてしまい、負けてたまるかという気持ちがそがれます。多面的な評価を学校現場、さらには日本社会全体で見直す時期に来ているのではないでしょうか。

大柳◉いいところを伸ばすのではなく、悪いところ、弱いところを矯正し、何でも平等で、そこそこの人間を増やしましょうといった減点主義の教育方針が、「負けてたまるか!」人間を少なくしたと思えてなりません。教える側も、その方が楽でしたからね。

こうした教育方針のもとで育った若い人たちは、他者より我(われ)先にといった厳しい競争より先に、過去の成功体験に縛られがちな現在置かれている状況、包まれている殻を自ら破って、新しい体制にチェンジしようとする意欲も薄くなります。

例えば明治維新を成し遂げたのは、チェンジしようという強い志に満ちた青年たちが中心でした。昨今の政治、経済の世界でも新興国、韓国や中国、ひいてはアメリカに対して「負けてたまるか!」の精神を持った人材がリードしてくれることを、私は大いに期待しています。それには、いいところを伸ばす加点主義を学校でも企業でも取り入れたらどうでしょう。

高田◉大柳さんと私が学んだ京都大学では、前例主義を嫌い、学生の長所を見てくれる加点主義を尊重していましたね。だから社会に出てユニークな活躍をする人材が多く出ているのでしょう。

ここ数年、海外留学を目指す大学生や、世界各地を渡り歩く若者が、がくんと減っています。おっしゃった「枠」とは、日本という、取りあえず安心・安全が保障されている「カプセル」ですよね。ぬくぬくとしたカプセルから一度は外に出なければ、世の中の仕組みも何も見えません。若者よ、カプセル、殻から飛び出そう、ですね。

きょうの季寄せ(四月)
一筆啓上 申候と 囀(さえず)るか 蘇坤(そこん)

鳥の鳴き声をどのように聞きなすかは複雑であるが、通常「一筆啓上仕候(いっぴつけいじょうつかまつりそうろう)」と聞きなされるのは頬白(ほおじろ)である。掲句も同断と思われる。

このオノマトペア(擬音語)がそのまま俳句にあっては季題として定着していることがある。「行行子(ぎょうぎょうし)(よしきり)」「かなかな(蜩(ひぐらし))」などなど、鳥や昆虫に多く使う。
(文・岩城久治)

「きょうの心伝て」・41

藤原 君代 さん (京都市南区/75歳)

手の温もり

63歳までとても元気だった私が、実母の介護のため、実家に日々通っていた最中(さなか)、舌に違和感を感じた。恐る恐る耳鼻咽喉科を受診し、その後、1週間にわたる検査の結果、舌がんの告知をうけ、頭は真っ白。しかし担当していただいたお医者さんの「完治しますので安心してください」との言葉を信じ、7時間半におよぶ手術、そして、その後の放射線治療にも耐えた。

その頃、結婚して横浜に住んでいた娘が、友人に協力してもらって1週間で千羽鶴を折って、届けてくれた。私は溢れる涙をこらえて思わず一首詠んだ。


「千羽鶴 一羽一羽に込められた

手の温(ぬく)もりに 涙あふれる」


何でもボタン一つでできる昨今、あれから11年たった今でも、あの千羽鶴の温もりと、週2回届けてくれた娘からの手紙の温もりは、忘れることはない。心の中の宝物として今も大切にしている。ありがとう。

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