日本人の忘れもの 第2部

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京都発「日本人の忘れもの」キャンペーン第2部

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第21回 11月18日掲載 対談

お茶の文化
嗜好品と飲料に二極化、共存共栄を

福井正憲さん

株式会社福寿園代表取締役社長
福井 正憲 さん

ふくい・まさのり 1936年、京都市生まれ。同志社大経済学部卒後、創業1790年の「福寿園」に入社。90年に同社8代目として、代表取締役社長に就任。関西茶業協議会会長、京都府茶業会議所前会頭。常に新しい発想と実行力で、宇治茶の発展に努めている。

ものの裏に隠れた美意識に世界が注目

村山裕三さん

同志社大大学院ビジネス研究科教授
村山 裕三 さん

むらやま・ゆうぞう 1953年、京都府生まれ。75年同志社大経済学部卒。82年ワシントン大よりPh.D(経済学)取得。野村総合研究所、大阪外国語大地域文化学科教授などを経て、現在は同志社大大学院ビジネス研究科教授、京都府「優秀技能者(現代の名工)表彰委員会」委員。

イメージ その1
大陸より伝えられ「東洋の心」とまで賞される日本の茶文化。その原点は京都にあります。

福井◉お茶が大陸から九州を経て京都に伝えられた当時、修行僧に愛用されていた大きな理由は、茶葉に含まれる成分、カフェインに脳へ刺激を与える働きがあったからと言えます。その後は、茶道などを通じ一種の嗜好品として公家・武将・庶民に広まりました。最近ではペットボトル飲料として普及。日本のお茶は、嗜好品と飲料に二極化し、いずれも世界に通用する日本ならではのお茶文化として成長しています。当社では、嗜好品としてのお茶を主力商品としています。サントリーさんとコラボレーションでご愛顧いただいているペットボトルの「伊右衛門」は、当社で厳選した茶葉を原材料にしていますが、私どもは飲料のお茶だと位置付け、共存共栄できればいいと考えています。

茶の生葉には発酵(酸化)作用があり、摘んだ後そのままにしておくと黒ずんでしまいます。中国緑茶の場合は茶葉を直火の釜で熱することで、日本茶は蒸すことで発酵を止めます。この違いから日本茶の場合、中国緑茶にはない色合いと独特のうま味を引き出しています。

村山◉私は、歴史ある京都の伝統産業から「和」をベースとした文化ビジネスを生み出す方法を研究し、本も出しています。「伊右衛門」は、福寿園の卓越したお茶ブレンドの技と、サントリーの水処理、特に加熱殺菌を必要としない充填技術が出会ったことにより生まれたヒット商品ですね。

日本は歴史を紐解くと、外国から製品や技術を導入しますが、お茶と同様、それを日本文化の中で融合、発展させ、優秀な商品を次々と生み出してきました。これは、日本が、海外と日本の文化を融合させることにより、世界のどこにもないものを作り出す能力があることを示しています。

グローバル化が加速する現在、国レベルに加えて、上海、シンガポール、ボストンといった都市間の競争の時代に入っています。第3の資本と言われる文化資本を豊富に持つ京都も十分に世界レベルの創造都市となる基盤はあると思います。この京都の誇る文化資本を最大限に活用するためには、伝統文化を守るだけではなく、「伊右衛門」のような伝統の技と最新技術の組み合わせや、京都と海外文化の融合を図ってゆくことが必要と感じています。

福井◉京都は、言葉、所作、料理、経営など、人・もの・お金・情報の全てにおいて美しくあらねばならないという、精神的な美意識文化が基層にあったために1200年の都であり続けたわけでしょう。また、例えば京都の山々、寺社や庭は、それぞれの時代の人たちが常に手を加えることによって、成り立っている人工の自然です。これらをいかにも自然のままのように美しく見せる。これが、京都が世界に誇れる美意識でしたが、昨今は短絡的に表面だけで美しいか否かを判断してしまう傾向が強く、「京都」というブランドを使えるだけ使って、育てようという意識が希薄になっていることも、ひいては日本人の忘れものの最たるものではないでしょうか。

村山◉美意識という点で言うと、パリも素晴らしい文化都市で、京都の文化を語り合える豊かな素養を備えています。パリに京都の職人を連れて行って現地の人と文化論議をすると、世界が今、強く関心を持っているのは、ものの裏に隠れた精神性や美意識であることを実感します。この日本独自の精神性をモノ作りに反映させないと、中国や韓国との文化をめぐる競争にも、日本が敗れてしまうのではないかという危惧を持っています。この点、日本のお茶文化が、その裏に独自の精神性を育て上げてきたことが、世界的に高い評価を得ることにつながったように思います。

国内でも最近の若い人たちの間で、日本固有の文化への回帰現象とも言える、伝統文化や工芸への関心が非常に高まっています。現代の若者は、子供時代に、われわれが経験したような伝統文化に根差した和の生活スタイルは経験していないのですが、彼らなりの視点から興味を抱いています。彼らは、アイスクリームやケーキでも抹茶入りを好みます。ここからもう少し奥へと引き入れるために、福寿園さんには、若者にも嗜好品として、本物のお茶を楽しめる商品を開発されることを期待しています。

福井◉日本人の、嗜好品としてのお茶離れが進んでいることは事実です。私たちも、よりおいしいティーバッグを開発するなどの工夫をしていますが、ぜひ村山先生のお知恵も拝借願えれば幸いです。私は今、「7食文化」の普及に力を注いでいます。1日3食の間に、それぞれお茶の時間を設け、一人でもいいし、そばにいる人たち同士でもいいので、お茶を介してひとときをくつろいでいただきたい。多忙を極める現代社会において、ペットボトルより少し濃いお茶をティーバッグで、出来れば急須と湯飲みで飲んでいただくと、精神的に落ち着くし、忘れていた大事な物事を、ふと思い出すきっかけになるはずですからね。

きょうの季寄せ(十一月)
こがらしや つゞきてながる 猿の声 園女(そのめ)

今年の木枯(こがら)し1号は先月29日に吹いた。掲句句意平明だが、初心の人は俳句入門書通りに表現の難を指摘することがあるかもしれない。すなわち、こがらしや/つゞきてながる/猿の声、と三段に切れることである。ことばのきまりでいうと文意からすれば確かに「つゞきてながるる猿の声」でなければならぬ。破調を嫌って定型を守ればきまりを破る。さてどうする。
(文・岩城久治)

「きょうの心伝て」・21

中坊 敏也 さん 会社員(京都府綴喜郡井手町/39歳)

日本人の思いやり

先日、嫁さんが胃腸炎で寝込んでしまいました。小さな子供がいるわが家では、嫁さんに倒れられると大変で、保育園の送り迎えに洗濯、食事と、普段家事を行わない自分には目の回るような忙しさです。しかも次の日からは東京出張でどうしようかと困っていましたが、おかげさまで嫁さんは、その日に受けた点滴で少し楽になり、私は出張に行くことができました。出張はお昼からだったので午前中に仕事に行くと、職場のみんなから大丈夫?と声をかけていただき、その中でも近所に住む方から、「奥さんに私の携帯電話の番号を教えておいてください。何かあれば駆けつけますから」と。何気ない一言だったかもしれませんが、私には、その方の優しい言葉が心に響きました。困っているときに、このような思いやりの言葉や行動は、今の時代ではお節介と言われることもありますが、日本人が本来持っている、思いやり。忘れてはいけない大切なことだと思います。

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