京都大好きトーク!

第五十五回 社会の課題を解決し、持続可能なまちを実現するイノベーションを京都から
村上圭子副市長 × 西堀耕太郎さん(京和傘製造元「日吉屋」5代目当主) × 橋寺由紀子さん(フェニクシー代表取締役)
門川大作京都市長さん・西堀耕太郎さん・橋寺由紀子さん 対談写真
住宅付き起業支援施設toberu(京都市左京区)での座談会に出席した皆さん

<プロフィール>
西堀耕太郎(にしぼり こうたろう)/1974年和歌山県生まれ。高校卒業後カナダに留学し、地元市役所勤務を経て京和傘製造元「日吉屋」の5代目を継承。和傘職人としてコラボ商品の開発にも取り組み、和風照明を中心に海外輸出を開始。日本の伝統工芸や中小企業の海外向け商品開発や販路開拓を支援するTCI研究所を設立。ジャパンブランドの価値を紡ぐ人が集い、実施し、学び合う「JAPAN BRAND PRODUCE SCHOOL」のプロデューサーとして、人材育成にも注力する。
橋寺由紀子(はしてら ゆきこ)/京都大経営管理大学院修了 MBA、京都大大学院医学研究科社会健康医学課程修了。薬学部卒業後、製薬業界で研究員として新薬の開発に携わり、上市(市販)を経験。2008年、アールテック・ウエノの上場を最高経営責任者(CEO)として成功させる。18年新規事業の創設を目的とする異業種連携インキュベーター、「フェニクシー」を共同創業。グローバルな社会課題を解決するエコシステムを形成することを目的に、19年10月1日京都市と連携協定を締結。
村上圭子(むらかみ けいこ)/北九州市出身。神戸大経営学部卒。1983年に京都市に入庁し、産業観光局観光政策監、産業観光局長、産業戦略監などを経て、2017年より現職。

社会のためのイノベーション
西堀耕太郎さん村上副市長 本日は京都で唯一の京和傘製造元「日吉屋」の当主・西堀耕太郎さん、起業支援施設を運営するフェニクシーの代表取締役・橋寺由紀子さんをお迎えしました。
西堀さん 私は和歌山県新宮市の生まれで、日吉屋は妻の実家です。カナダ留学中に日本の文化の素晴らしさに気付いた私は、その後和傘に出合い「格好いい、渋い」と感動しました。京和傘は京都市の伝統産業74品目の一つで、神社仏閣や祭礼をはじめとする伝統行事、茶道や花街などで使われますが、残念ながら一般の方はあまり使いません。当時の売上は年間100万円ほどで、廃業が決まっていました。でも、日吉屋が廃業すれば祇園祭などの伝統行事や伝統芸能で使う和傘が消えていく。それは忍びないと思い、当時、新宮市役所でインターネットを使った観光振興を担当していた私は、「何とかしたい」と日吉屋のホームページを制作。週末には和傘作りを学び、家族に反対されながら退職して傘屋になりました。ホームページの開設で注文は増えたものの、それだけではやっていけない。そこで傘の技術を使った照明器具を作り始めたんです。天日干しの時に和傘に差し込む光の美しさに気付いたのがきっかけでした。
橋寺さん 素晴らしいイノベーションですね。
西堀 和傘の歴史を調べると、中国から伝来した奈良時代は雨具でなく魔よけの品。それが何百年を経て、開閉し防水できるものになりました。新しい技術の誕生です。それを知って「伝統は革新の連続。ならば今の時代に合うかたちにしてもよいのでは」と思ったんです。
村上 気付きが生んだ新展開ですね。橋寺さんは、研究者としてキャリアをスタートされたと伺いました。
橋寺 はい。私は薬学部卒業後、化学薬品メーカーに入社しました。ちょうど医薬品事業部立ち上げの時でしたが、開発に携わった二つの薬は日本とアメリカで承認を得て、両国で販売することができました。14年間研究開発一筋でしたが、事業部の独立に伴い、会社上場とライセンス管理を担当してほしいと言われたんです。医薬品ビジネスは莫大(ばくだい)な開発費がかかる上、成功確率は約3万分の1と、ハイリスク・ハイリターン。驚きつつも「商品を世に出すために」と門外漢の経営を引き受けることに。この経験が、起業やイノベーションに挑む人に役立つのではと2018年にインキュベーター、「フェニクシー」を立ち上げました。インキュベーターとは、新生児の保育器などを指す言葉で、転じて起業家や起業家の卵たちを支える場のことも表します。ここ「toberu」(トベル)で寝食を共にしながら起業を目指す「滞在型ソーシャルインキュベーター」として、「大企業の中で、社会的課題をビジネスの力で解決しようという思いがある人を」と呼び掛けました。今、9社から参加していただいています。
村上 お二人が京都に来られたのは偶然ではないのかもしれませんね。京都には人を「育む」力があり、新しいことに挑戦する人を「面白い、応援しよう」という方がたくさんおられます。そして、お二人ともご自身のためだけでなく、社会にとってこの仕事が必要だという思いで挑まれたからこそ、こうした素晴らしいイノベーションを成し遂げられたのではないでしょうか。

イノベーションを生み出す京都のまちの力
橋寺由紀子さん橋寺 人を育むには、その土壌となるまちの力が大切です。エコシステム(ビジネスを創出し、それがさらに新ビジネスを生み、資本・人材などが循環する仕組み)に必要な要素の一つは、優秀な人材が集まる場であること。二つ目は、質の高い生活。三つ目が産官学の連携です。京都は多くの大学・研究機関が集まり、上質な文化を身近に感じられる環境にも恵まれ、経済界、大学、行政などがしっかりと連携しています。そしてそれぞれが目利き力をお持ちで、新たな挑戦に対して「やってごらん」と後押しする進取の気性も。それが四つ目の要素であるファイナンス、お金集めにも直結しています。さらに多様な年齢・職業・国籍の方が集われることで、ちょっとした緊張感と多様性もあり、イノベーションが生まれるためのすべての条件がそろっています。
西堀 私は世界各地を訪ねてきましたが、京都ほどあらゆる階層に文化やものづくりが根付いている所はないと思います。伝統産業から先端産業まで集結する総合力・多様性が、さらなるイノベーションを生むのだと思います。
村上 京都の文化の力がイノベーションの創出につながっているのですね。ここ数年、京都に拠点を開設する企業が相次いでいます。そして、西堀さんはご自身の経験を生かされ、今では全国各地で商品開発を支援しておられますね。
西堀 最初は京都の企業のお手伝いから始めたんです。私は、海外向けに作るのであれば現地の生活習慣に合ったものがいいと考えています。そのため外国人専門家の方にも入ってもらい、その意見をもとに商品開発を行っています。その手法が「京都モデル」と呼ばれ、うわさを聞いた他地域からの依頼も増え、本年度は13のプロジェクトを進めています。
村上 イノベーション創出の取り組みを京都から全国に広げておられますね。西堀さんの活動のように、文化の力を生かした取り組みは全国の皆さんのお役に立てるはず。京都市も京都に全面的に移転する文化庁と共に、文化の力で日本を元気にできるよう頑張ります。

持続可能な未来に向けて
村上圭子副市長村上 文化の究極の価値は、人の暮らしや心を豊かにすることだと思っています。それを次世代にどう伝えるかが大きなテーマであり、そのために始めたのが小中学生の文化体験です。いけばなや茶道の家元などに教えてもらう「文化芸術授業(ようこそアーティスト)」や、子どもたちに能楽堂などの本物の空間で文化を体感してもらう「伝統公演授業(ようこそ和の空間)」などを実施しています。
橋寺 私も、社会に可能性や選択肢を増やし、若い世代が生きがいを感じられる未来をつくっていきたいと思っています。まずはtoberu滞在中の方々による大企業発ベンチャーを実現したいですね。多くの人が困っている課題を解決し社会にインパクトを与える、持続可能な事業を期待しています。今、働きづらさを感じる人も多いですが、起業は自分のしたいことを通じて生活が楽しく、社会が良くなるチャンス。挑戦する人を増やし育てるのが私の大きなテーマです。
西堀 私は原点に立ち返り、新しい傘を作りたいと思っています。竹の骨と植物性プラスチックの生地を用いた、強くて地球環境にも良い傘です。またフランスのデザイナーと組んだ新しい照明器具も発表します。「和傘の良さを日常生活に」と国内外へさらに広く訴えたいですね。全国商工会連合会の支援を受けた京都中央信用金庫の海外プロジェクトを通し、各地の素晴らしい文化も広めたい。文化の領域で生活が成り立つよう、職人や作家を支えるクラウドファンディングに一般の方の参加を広げる活動も進めたいです。
村上 人を育てるのに経済面は大切。京都市の文化施策の3本柱の一つは経済との循環です。昔は余裕のある方が文化を支えていましたが、今はいろいろな方が文化に投資できる市場づくりが必要だと思います。二つ目は文化の幅を広げること。伝統文化・芸能の枠にとどまらず、文化というものを幅広く捉え直したい。三つ目が都市間の文化交流です。分かり合うことで争いがなくなる。文化は世界平和にも貢献します。3月には京都市京セラ美術館が始動し、2023年度には京都市立芸術大が京都の玄関口・京都駅のすぐ東の崇仁地域に移転。まちの顔になるとともに、アートと若い学生の力で地域を元気にします。京都は世界文化自由都市宣言に掲げた目標である「永久に新しい文化都市」に近づいてきた気がしますね。「スタートアップの都・京都」の実現に向けエコシステム形成の連携協定もフェニクシーさんと締結しました。
橋寺 まち全体が緩やかな連携の中で良い循環を育むエコシステムになってほしいと思います。
村上 「このまちをもっと良いかたちで次世代に」と京都の人は真剣に考えています。これから世界中の人々が交流する東京オリンピック・パラリンピックやワールドマスターズゲームズ2021関西ジャパンの開催、文化庁の全面的移転など京都・日本の文化への注目は一層高まります。京都の文化の力でイノベーションを促し、それを持続可能な社会の実現につなげ、世界での京都・日本の存在感を高めていきたいですね。これからもよろしくお願いします。


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